「裏嘆きの都」
第三話



対降魔部隊追憶6「嘆きの都」第四章より
第二話



 新聞が来るより早く目が覚めていた。
 より正確に言えば、ほとんど寝ていないのであるが。
 帝都中がざわついているような、漠然とした不安がのしかかっていたのだ。
 やけに自分の感覚が鋭くなっているような気がする。
 五感のどれでもない感覚で、何かが起こっていると確信した。
 この感覚は今年に入ってから何度か経験している。
 この前は、研究室で高音とやり合ったときだが……。

 かすかに覚える胸の痛みと共に、夢織は布団から起きあがることにした。
 着替えて顔を洗い、時計を眺める。
 午前五時だ。
 もうこの季節は東の空が白くなっている。
 それなのに、まだ新聞は来ていない。
 この辺一体に新聞を配達しているのは、横塚研の知り合いである二回生館川君だ。
 決してさぼるような性格でないことは知っているぶん気になる。

 納豆だけをおかずに朝食を食べ終えてもまだ来ない。
 いっそ、新聞配達所まで行ってみることにした。

 現在、帝都で新聞と言えばまず市場寡占率が七割を超える帝都日報である。
 その配達所に人が集まっていた。
 朝一番の新聞を楽しみにしている近所の老人達が多いが、お使いで来たらしい子供や書生もいる。

「何があったんですか?」

 知り合いの文学部の教授のところで見た書生を見つけて話しかける。

「ただごとじゃねえよ。帝都日報の本社が反乱軍に占拠されていて新聞が出来ねえんだとよ」
「なっ・・・!?」

 反乱軍、という日常からかけ離れた単語にまず驚いた。
 印刷所が火事にあったとか言う方がよほど現実的な話だ。
 よりによって、この帝都東京でか・・・!
 しかし、反乱軍なんてのが出てくるなら、それより先に占拠すべき施設がたくさんあるように思うのだが。

「すみません!暫定的に号外を配布します!」

 例の館川君が慌てふためきながら走ってきた。
 背負っているのがその号外らしい。

「本社が駄目だったので、何人かの記者が印刷所で書いた代物ですが、まずはどうぞ!」

 何で配達員の彼が持って来るのか疑問だったが、どうもその配達所にいるべき人間が半分くらい来れなくなっているらしい。
 鉄道や橋が占拠されている可能性も確かに考えられた。
 それはともかく、渡された号外に早速目を通す。
 夜間撮影らしくあまり鮮明とは言えない写真と共に、練る時間も省いて書くだけ書いた、という文章が並んであった。

 首相官邸は一時占拠されるも午後四時前に奪還。
 宮城の戦闘は未だ宮城内外で続行中の模様。方術士団にも死者多数。
 国会議事堂は午後五時時点で鎮圧間近。
 帝都日報社は未だ占拠続き、奪還の見通し立たず。
 陸軍省は音信不通であり、全滅の可能性もあり。
 外務省占拠は激戦の末、未遂に終わる。
 内務省は午後五時に鎮圧隊が突入し、現在戦闘中。
 その他、帝都郊外の数カ所にて戦闘を確認。
 反乱の首謀者は朱宮景太郎陸軍中将、粕谷満陸軍少将の二名と見られる。

 絶句。
 まずは一同、言葉もない。
 しかし、粕谷という名前には夢織は憶えがあった。
 高音への連絡をとろうとした何人かの陸軍士官に誘導尋問をしかけて聞き出した上官の名前がそれだった。
 つまり、それは言い換えれば、

……高音さん……、あんたが関わっているのか……!!

 ようやく、ようやく解った。
 何故高音が研究室から姿を消したか。
 これだけのことをやるのに、表に出ていられるはずがないのだ。
 おそらく事態が落ち着けば研究室にも探索の手が伸びてくるだろう。
 軍や警察の対応次第では、今日にも来るかも知れない。

「・・・!!」

 我知らず号外を握りつぶしながら、夢織は駆けだしていた。

「おい!?夢織・・・!?」




 帝大文学部棟、近代都史研究室は五つの部屋からなる。
 まず、本来なら教授室に相当する助教授室。
 当然ここの主は水地新十郎助教授であり、外部の者はおろか、内部の人間にとっても半ば禁断の間であった。
 夢織も数えるほどしか入ったことがない。
 その隣には書庫、学生室、そして応接室兼執務室があり、執務室には高音渚と堀田の両講師の机がある。
 後は地下室が別にあり、ここは大体倉庫になっている。
 ともあれ、今はその三人の誰も研究室にいない。
 現在のまとめ役は、助手兼大学院生である夢織本人である。
 教授会への覚えはいいので、さほど冷遇されている訳ではないのだが、帝大中最も常識はずれな状態にある研究室であることは間違いない。

 しかし、その研究室はほとんど彼ら三人がいたときと変わらない配置のままである。
 水地の部屋においそれと入ることは、まず畏れが先にあってほとんど誰もやろうとしなかったし、高音が去った後の執務室の書類等を運び出すことを夢織は後輩達に断じて許さなかった。

 微かに、自嘲する。
 高音が戻ってくることを信じているのだろうか。
 だが今はここに残しておくわけには行かなくなった。
 残しておけば証拠書類として奪われることも、盗まれる可能性も僅かながらある。

 それは、断じて許さない・・・!

 しかし、どうする。
 見渡してみて途方に暮れる。
 これだけの書類をどこに隠したらいいと言うのだ。
 自分の下宿先は調べられる可能性がある。
 悩みの渦中のまま、ふらふらと水地の部屋に入り込んでいた。
 入るのは、半年以上ぶりである。
 入り口の敷居をまたいだ瞬間から、言い知れぬ圧力を感じる。
 主にふさわしいと言えなくも無い。
 だがこうして見てみると確かに色々な物が転がっているが、水地が過去に見せてくれた物が半分も見当たらない。
 もっとあると思っていたのだが……。

 盗まれたか・・・?

 とも考えたが、それを即座に否定する。
 あの水地が泥棒よけの五つや六つしかけていないはずが無いからだ。
 敵意を持って入り込めば一撃で消滅させられるような術がしかけられていたとしても、自分は驚かないだろう。
 とすると、高音が取りに来たか、あるいは……
 最初からここにはこれだけしかなかったかだ。

 何か、どこかにしまう方法があったのだ、水地は。
 侵入者も、自分のような学生にも知られないような場所が……。
 そういえば、自分は水地の自宅も知らない。

「どうすればいい……」

 意図したものではないが、声が出た。

「あんたなら、何でも出来るだろう……!
 教えてくれ……、俺は……高音さんとの思い出も、あんたとの思い出も……奪われたくは無い・・・!!」

 本人を前にしてはついぞ言ったことは無かった言葉である。
 だが、反発し反論し続けていても、それでもあえてこの研究室に飛び込んだのは、主義主張こそ違え、人間として自分は間違いなく彼に憧れていたからに他ならない。
 畏れつつも、憧れていた。
 反論しつつも、尊敬していた。
 納得出来なくても、見上げていた。
 同志では無くても、師ではあった。

 前教授派の堀田と手を組まなかったのも、思えばそういうことなのだろう。

 自分は、あの男には勝てない。
 思い知らされながら、叫んでいた。

 ふと、
 部屋の雰囲気が変わっていた。

「これは・・・?」




「どういうことですか!?」
「見損ないましたよ、夢織さん!」

 事実上の夏期休暇に入っているためのんびりと昼から大学から来た(内乱の影響で遅れてしまった者も多かったようだが)後輩たちが、部屋の様子を見て色めき立った。
 無理も無い。
 今の今まで動かすなと厳命していた本人が、盛大に部屋中をまっさらにしていては。

「高音先生の留守を守っているんじゃなかったのか!?」
「あなたも、結局教授会の手先だったのか!」

 わざわざこの研究室に入ってくるからには、水地を畏れつつもやはり夢織と同様に水地を尊敬している者らがほとんどだ。
 さすがに黙っていられないらしいが、夢織はあえて何も答えようとしない。
 騒ぎが大きくなった。
 元々今日は朝から内乱騒ぎだ。
 みんなかなり神経質になっている。
 そうこうしているところへ、

「せ、先輩!大変です!」

 と、聞かなくても大変と解る形相で、三回生が一人駆け込んで来た。

「今、どこに止めている?」

 夢織は舌打ちをしたものの、冷静に聞き返した。

「今、軍の監査官とか言っている奴等が十人、こう……って?え……?先輩?」

 やや予想より早かったが、こう来ることを予想していたのだ。
 学生らに一様にどよめきが起こる。
 いったい何が起こっているのか解らない状態だ。

「夢織さん、あなたは、まさか・・・?」

 先程夢織をなじり倒そうとしていた学生が、思い当たったのか目を見開く。
 念の為、もう一押ししておくことにした。

「いいか、私は自分が研究室の権力を握るために前任者の書類を破棄したのだ。それが間違いない答だ。いいな」
「・・・・・・・・・」

 それでようやく事情が飲み込めたらしい後輩たちは一様に頷いた。

「どうせ止めてくださっているのは横塚教授だろう。校門前か?」
「え、あ、はい・・・」




「いいからとっとと通せ!これは陸軍中将・・・いや、陸軍大臣代行殿からの命令だぞ!」

 高圧的に命令書をかざす陸軍士官天笠士郎中尉であるが、

「ふん、陸軍が怖くて大学人やってられるか!おととい来やがれ!」

 とまあ、元気に対抗している理学部の横塚教授の方が優勢である。
 だいたいガタイからして違うし、この型破りな教授は学生に圧倒的な人気がある。
 彼の声にあわせて、学生たちから盛大に帰れ帰れの合唱が沸き起こった。

 そもそも規約上は、大学にはかなりの自治が認められている。
 本来は軍も警察もまともに入ることは出来ないようになっているのだ。
 そこを天笠は、先ほど決定したばかりの非常事態宣言を理由にして、大学内の調査を要求しているのであるが、はいそうですかと受け入れられるわけもない。
 しかし、あまり軍と折り合いを悪くするのも避けたいところなので、周りの大学人ははらはらしている。

「よ、横塚君。一応彼の言うこともまったく筋が通っていないこともないのだが・・・」

 法学部長が、余りことを大きくしたくないらしく横からそっと提案をいれる……が、

「そ、そうだぞ、この陸軍大臣の認可印が目に入らんのか!」
「知るかこんなもん」
「ああっ!こら!」

 ひょいと横塚は天笠の手から命令書をふんだくってしまった。

「おーい、便所の紙にでも回しとけ」

 いぢめられて泣きそうになった天笠は、ついにぷっつん切れた。

「えーい!それならこちらにも考えがあるぞ!
 陸軍が大臣から働きかけて頂き、大学の予算を削ってやる!
 何しろ陸軍予算はいくらあっても足りないんだからな!」

 一応、軍刀を抜かなかったのは誉められてもいいかもしれない。
 とはいえ、それはそれでかなり困る。
 大学の、特に理系の研究室というものはとことん金のかかるものなのである。
 横塚はいろいろな人脈から金を集めて研究資金にしているが、それでもやはり国立大学。
 国の予算なしでは研究室の運営はやっていけない。
 まして、自分のところだけならともかく、信義にあつい横塚としては、他の研究室、他の学部まで迷惑がかかっては……。

 とはいえ、この程度の奴の言うことがまともに通るとも思えないが。
 天笠が陸軍大臣代行である京極の内部下であることは、この場の誰も知らない。

「うーむ」

 横塚は考え込んでしまった。
 天笠は内心これでしてやったりと思っていたのだが、実は横塚、どうやって拉致監禁して証拠を残さずにこの場を収拾しようかと、怖いことを考えていたりする。

「教授、怖いことを考えないでくださいよ」

 夢織が駆けつけたのはちょうどそんなときであった。

「お、来たか夢織君」
「なんだぁ、貴様は?」

 せっかく優勢になったと思ったところで乱入されて、天笠はおもしろくない。

「おまえさんが捜索しようってほざいている水地研の現責任者だよ」

 という横塚の言葉を聞いて、こんなガキがか、という顔になったのも無理はない。
 一方の夢織は、ほとんど年は変わらないだろうが、と内心ツッコミつつもそれは顔にも出さない。

「警察ではなくわざわざ軍が出向いてまでうちの研究室を捜索とは、また何事ですか」

 だいたいの想像はついていて、しかもここに来る前に工作をしていたということなどおくびにも出さず、なに食わぬ顔で尋ねる。

「貴研究室の高音講師に、反乱を起こし現在も逃亡中の粕谷軍の一味としての容疑がかかっている。
 この任務は反乱鎮圧の一環であり、警察の管轄ではない。
 いるならば身柄の引き渡し、そして研究室の捜索を要求する」

 天笠はここで本来言うべきではないことを言っている。
 粕谷軍が鎮圧されていないというのは本来ここでは言ってはならないのだ。
 とはいえ、先ほどから横塚らと喧々囂々やりあって、彼は頭のネジが少々飛んでいた。
 実は、高音と粕谷のつながりについては軍内でも知る者はほとんどいない。
 裏で彼らを操ろうとした京極ならばこそ知っている情報なのである。
 ここに彼が派遣されたのも、京極が陸軍の正式命令とは別に、出し抜かれた高音の尻尾をつかもうとして非公式に送り込んでいたのだったりする。
 とはいえ、この場にいる人間は天笠も含めて、そこまでのことは誰も知らないのだが。

 それでも、それは夢織にとっては意味のある情報であった。
 まだ、高音は捕まっていないということなのだから。
 内心、そっと微笑んでおく。

「証拠はございますか?」
「なに?」
「うちの高音が反乱の片棒をかついだ証拠は?」
「そ、それを調べるために来たのだ!貴様も反乱軍の仲間になりたいのか?いいから通せ!」

 ここで夢織はわずかに間を空けてから、天笠の不意を突いた。

「仮に通しましても、すでに高音の私物や書類は処分してしまいましたが」

 さも当然、という言い方で夢織が告げた言葉に、天笠は唖然となる。
 隣では横塚教授もびっくりしていた。

「しょ、処分したあ!?」
「高音講師が行方不明になってから四ヶ月……」

 自分で言いつつ、どこか、胸がずきりと痛んだがそれにひるまず続ける。

「彼から仕事の引継だけはその前にやっておりましたのが幸いでした。
 これ以上待っても無駄と判断し、夏休みに入るのを機に掃除しました」

 横塚にはそっと目配せする。
 彼はしょっちゅう水地研に来ていたから、今言ったことが嘘だということは解るだろう。
 あとは、自分の遅れてきた理由を考えれば、横塚なら納得してくれるだろう。
 案の定、こっそりお茶目なウインクが返ってきた。
 目配せではない。ウインクだ。
 ちょおっとばかり不気味である。

「信じられるかそんな言葉!研究室を見せろ!」
「捜索する物は無いと言っています……が、納得できないと言うのであれば探索ではなく見学という形で認めても良いでしょう」

 捜索ではなく、正規の手続きを踏んだ大学見学と言うことならば、大学自治に抵触しない。
 向こうで、横塚がニヤリとしていた。

「ただし、入るのはあなた一人。
 軍刀も拳銃も置いた上で入ってもらうことになる。
 よろしいかな・・・!」

 天笠以下十人からなる監査官が全員息を飲んだ。
 夢織から一瞬、壮絶なまでの威圧感を感じたのだ。

「い……いいだろう……!」

 自尊心を振り絞って、天笠は辛くも声を返した。

「結構です。では事務局で手続きをしてきて下さい」



「……ない……」

 事務局から発行された名札つきで、なおかつ事務局員と夢織に案内兼監視されつつ研究室に入った天笠は茫然とつぶやいた。
 なお、部屋の外では水地研、横塚研の面々が心配した面もちで眺めている。

「くそっ……ならば隠し扉か何か……」
「建物の構造を考えて下さいね。隣の研究室との境は壁一枚分しかありませんよ」

 水地の部屋で壁を調べる天笠に、夢織は努めて冷静に指摘を入れる。

「研究室はこれで全てか?」
「後は地下にも倉庫がありますが、文化財や資料の類しかありませんよ」

 ごねる天笠は地下を見た後、さらに他の研究室まで見て回ったが、結局高音と粕谷に関する書類を何も発見できずに終わった。

「あとは貴様の自宅だ!」
「……はいはい」

 日が沈んでいるというのに、これが最後とばかり天笠が叫ぶのでつき合ってやったが、もちろん何も出てくるはずもない。

「満足いただけましたか?ではこれにて」

 天笠はすごすご帰るしかなかった。




「ガハハハハ!思わず水地と見間違えたぜ!」
「笑えない冗談ですよ、それは」

 研究室に戻ってきた夢織は、まず横塚のバカ笑いに迎えられた。
 捜索前は不信の視線をあらわにしていた後輩達も、今は一様に迎えてくれた。
 高音が反乱容疑を受けているのは喜べないが、まずは敵軍撃退のささやかな祝いとして、横塚研水地研の合同飲み会が学生室で始まった。
 夢織は酒気で倒れそうになったので、あわてて水で顔を盛大に洗って何とか意識を保つ。

「しかし夢織、どこに隠したんだ?
 本当に捨てたと言うことはないだろうな」
「それなんですけど、すみません。ちょっと確かめたいことがあるので手伝っていただけますか?」


 水地の部屋に入ったのは、夢織と横塚の二人だけだった。
 後の者はなかなか、入るのが怖いので入り口付近に群がっている。
 普段ならのぞき込むことも滅多にないのだ。

「その古地図の後ろの壁、調べてもらえますか?」
「おう?やっぱり隠し扉だったのか?さっきは危なかったんじゃねえのか」
「ええ」

 ごそごそと調べる横塚だが、何もない。

「……何もないぞ」
「念のため、手を当てて”開け”って言ってみて下さい」
「?ひ、ら、け」

 何も起こらない。

「おいおい、何の冗談だ?」
「やっぱりそうか……」

 不安がる一同を前に、夢織は壁に手を当てて、

「開け」

 というと、その壁に渦巻く裂け目が現れた

『おおおおおおおっっっ!?』

 夢織が、閉じろ、というとまた閉まったので、今度は水地存命の頃から研究室にいる四回生が一人、恐る恐る部屋に入って同様に試してみた。

「……何も起こりませんね」

 つまり、ということは。

「水地先生が何を考えて設定したのかは解らんが、どうやら俺しか開けられんということのようだな。
 多分、高音さんも出来たとは思うが」
「この向こうがあれだけの荷物を放り込める隠し部屋になっているのか……、って、オイ、入ることもできねえぞ」
「え?」

 横塚が、夢織が再び開けた裂け目に入ろうとして押し返された。
 どうやら、入れるのも夢織一人らしかった。

「この奥にみんな隠してやけに自信満々だったのは、他の奴は入れっこないということをわかっていたのか?」
「いや……、多分先生ならなんとか手を打っていると思っていた」

 それを聞いて、横塚は呆れたように大口を開けた後、夢織の背をバシンと叩いた。

「おまえさんは立派な水地の弟子だよ。
 おまえさんがどう思っていようがな」



 結局、再度の追求が来ることを恐れて、しばらくこの扉の向こうに隠し続けることにした。
 中で荷物の再整理をしつつ、夢織はため息をつく。

「これが……単なる隠し部屋なものか……」

 講堂二つ分くらいの広さはゆうにある。
 そこには、様々な物品だけでなく、呪法陣などもいくつも描かれていた。

「何故、俺をここに入れたんだ……。
 あんたは、俺に何をさせようって言うんだ……」

 その問いに答える者は、誰もいなかった。



第四話第一章


初出、百道真樹氏サクラ戦史研究所内掲示板


水地助教授室に戻る。
近代都史研究室入り口に戻る。
帝大正面玄関に戻る。
帝劇入り口に戻る。
夢織時代への扉に戻る。