近代都史研究室
肖像「美化千倍」





「夢織戻りましたー」
「遅い、どこで何遊んでた」

 研究室に帰った途端に高音に叱責された。

「遅いって……いいじゃないですか、オレがどこで寄り道したって」
「よくない。不真面目な証拠だ」
「ちゃんと調べることはやってますよ」
「どこでどんなことをしているか私が解らないと困る」
「尋常小学生ですか、オレは」
「吐け」

 やましいことでもやってきたのか、とその瞳が鋭く光る。
 冗談抜きで、恐い。

「ふと気が向いてこれを描いてもらってただけですよ」

 集めてきた資料に挟んでいた似顔絵を取りだして高音に渡した。

「……誰?」
「オレですが」

 じーっとこっちの顔を見て、それからもう一度似顔絵を見つめ直す。

「この絵描きさんすごい……
 どこをどうやったらこの顔をこんなに格好良く描けるんだろう」
「喧嘩売ってんですか」
「おまえの顔なら……こんなとこでしょ」

 高音はペンを手に取ると、手近にあったメモ用紙にさらさらと絵を描き始めた。
 あっという間に情けない顔が出来上がる。

「ほらそっくり」
「ぐぬ……」

 特徴をうまく掴んでいて、一瞬反論に窮した。

「どれが一番似ているかみんなに聞いてみようか」
「やめろーーーーーーーーーっっっ!」






美化千倍

太正五年秋
塵都氏画





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