嘆きの都
追憶其の六
あとがき



後章 来たれよ、破滅の光景

 まずはここまで読んで下さったみなさん、本当にありがとうございました。
 ここで終わるか!と言われても仕方のない切り方ですが、第六弾「嘆きの都」は今回を以て終わりとさせていただきます。
 毎回降魔戦争期の疑問を元に書いているこのシリーズですが、今作最大の疑問にして主題は「降魔戦争は何故長引いたか」でした。
 公式年表をひもといてみましょう。

 降魔戦争の開始が一九一五(太正四)年。
 終結が一九一八(太正七)年。
 サクラ大戦の法則に従って、勃発は一五年の四月と考えます。
 サクラ大戦前夜三巻から一馬の逝去が一八年三月として、決着は一八年の新年早々ということになります。
 計、三年間。
 降魔戦争は巨大降魔の出現から始まったというのが定説(いや、公式設定なんですけどね)ですが、三年間も十メートル超の巨大降魔と戦闘し続けていたら、その余波だけで帝都は壊滅的な被害を食らっていることでしょう。
 そんなわけで、前作「戦慄の扉は開き」では降魔戦争の中期に巨大降魔が出現したという設定で話を進めました。
 年月を当てはめると、これが一九一六(太正五)年の十二月に当たります。
 この場合だと、降魔戦争の勃発は降魔の大量発生に始まり、それから一年半、断続的に降魔の出現事件が重なったのではないか、ということになります。
 サクラ大戦でそうであるように。
 これならば真之介とあやめの二人が、喧嘩したり仲直りしたりしながら少しずつ近づいていったりすることも、少し平和な一時には一緒に銀座の街を歩くこともできただろうと思うのです。
 本弾第五章にて小中大型降魔と対降魔部隊の戦力比を提示しましたが、これはこの時期を踏まえてのことです。
 というわけで、公式設定に対するこの無謀な提言を元に話を進めています。

 さて、巨大降魔が出現しても、これとそう何度も対決したわけではないだろうと思いました。
 十回も戦っていたら、それこそ倒せるか倒されるかしています。
 さらにあと一年以上、どうなったか。
 そこで思い至ったのが、陸軍が降魔に注目していたと言うことです。
 壮絶な戦力ともなりうる降魔。
 これを巡る争いがあってもおかしくない。
 それがこの物語展開の動機でした。

 まず前半の相手役となった朱宮中将は、その陸軍の幹部と言うことと、いて当然であるはずの陸軍内の米田の親友、と言う二つの役をやってもらいました。
 米田は陸軍中将のくせに陸軍内には敵ばっかりで、海軍の山口らとの交流の方が主というのがサクラ大戦(2)における状態で、戦友がいません。
 思ったのです。
 いないのではなく、いたけれども死んでしまったのではないか、と。
 生まれも育ちも米田と正反対。
 だからこそかけがえのない友になってくれたのではないかと願っています。

 前半から中盤にかけて第三の勢力となる粕谷少将は、陸軍急進派というイメージが先にありました。
 米田と朱宮の対立だけでは話がこじれてくれないということで、事態を複雑にしてくれることを願ったキャラクターでしたが、想像以上に悲劇的な結末になってしまいました。
 降魔戦争に全てをかけて夢破れたこんな男もいたのではないかと、心に留めて置いていただければ幸いです。

 この二人を始めとして、春日玲介士団長など次々とオリジナルキャラクターたちが死んでいきましたが、降魔戦争で死んだのは真宮寺一馬だけではなく、もっとたくさんの名もほとんど残されない者たちが死んでいったのが降魔戦争であろうと思って下さい。
 サクラ大戦であろうとも、その影ではきっと多くの人々が傷つき死んでいるはずなのですから。

 それから、京極閣下も存分に動いてくれました。
 彼の降魔戦争での動きを考える元になったのは、サクラ大戦2第四話にて病院前でさくらに向かって言った言葉です。
「馬鹿な死に方をした。犬死にをした」
 彼は一馬の死に方をけなしていますが、一馬という人間自体は全くけなしていなかった様に思います。
(2を一回しかクリアしていないので、記憶に自信があるわけではありませんが)
 わざわざ反魂の術で蘇らせる手間をかけてまで、そして五行衆を差し置いてまで腹心の部下にしたのは、誰よりも一馬を認めていたからではないだろうかと思いました。
 かくて、一馬と京極の直接対決まで持っていきました。
 このときの敗北があって太正十四年に繋がっているように感じていただけたら嬉しいです。
 木喰と金剛の傷跡についてもこんな状況でいかがでしょうか。
 また、黄泉の宝具最後の一つに関して七年後の彼が関わる物語「帝都怪盗浪漫銀仮面」もこのサイトに再録しております。
 まだ読んでいらっしゃらない方は、気が向きましたら御覧になって下さい。
 今作にも登場している「ある方」が主人公です。

 中盤以降活躍する闇の者たちですが、彼らはサクラ大戦の世界観にそぐわないと考えて、眉をひそめる方がいらっしゃったかも知れません。
 しかし、魔物や式神が平然と現れているし祟り神を降ろすという設定もあるくらいですから、もっと身近な妖怪たちが姿を見せないことも無いだろうと思いました。
 特に、死天王や五行衆の人物紹介に際して、悪に染まった「人間」、と明記していることがあるのが、逆に上級降魔ではないにしても人ではない高等知的生命体の存在を示していると拡大解釈しました。
 特に妖狐に関しては別の考えもあって出しました。
 興味を抱かれた方はよろしければ、このサイトで連載中のもみじ小戦を読んで下さい。
 僅かですが、今作とも関連しております。
 それから同時に彼らは、帝都の近代化と共に失われていく自然の力の象徴でもありました。
 太正帝都の繁栄を否定するわけではありません。
 しかし、その裏側にはやはりうち捨てられた物と者があることを忘れたくありませんでした。

 彼らと関連した刹那と羅刹の兄弟は、本筋の主題とはやや外れます。
 しかし、黒之巣会、黒鬼会という組織が出来上がるにはそれなりの理由があると思います。
 帝都が反映の影で確実にため込んでいたであろう矛盾が。
 それがどれほど矛盾に満ちていようとも、彼らには彼らがそうした理由があったはずです。
 なぜなら、彼らも生きてきたのですから。
 その中で、SEGAサクラ大戦BBSにおいても黒火会さん以外の方はほとんど取り上げることのないこの二人はあまりにも哀れでした。
 特に羅刹に至っては、ほとんど活躍もできないままアイリスマイリスルレルリラ〜♪なぞ食らってしまうわけですから。
 うち倒してきた彼らに、もしかしたらこんな過去があったかも知れない。
 黒鬼会五行衆だけでなく、彼らのこともたまには思い出して上げて下さい。
 この物語がその助けになれば、彼らを活躍させた甲斐がありました。

 そして、渚です。
 彼女については、追章で書いたことがほぼ全てでした。
 彼女の設定は、何人かの帝国華撃団花組メンバーの特徴を裏返しています。
 本来なら戦いの場にいるはずのない乙女たち。
 あやめが抱いた、もしかしたらという想い。
 その意味を、しばし考えてみて下さい。

 それから、巨大降魔という存在についてもいささか考えていたことがあります。
 前半で山口が悩んでいましたが、実際のところ巨大降魔が自然発生したかということにはいささか疑問が残ります。
 発生に意図的な物を感じるのです。
 これが第五弾「戦慄の扉は開き」を書いた動機でした。
 そして今回、非常に利己的な理由で巨大降魔に別の設定を付け加えた格好になります。
 これは次の降魔戦争完結編の物語になりますが、最終的には真宮寺一馬はこの巨大降魔との戦いで魔神器を使用し、その三ヶ月後逝去することになります。
 ただの強いだけの怨念の集合体に、一馬を殺されたくなかったんです。真之介をおとしめられたくなかったんです。
 彼らがその命をかけねばならないほどの厳然たる意志と存在意義が、巨大降魔に欲しかったのです。
 それが前回の水地、そして今回の渚たちです。

 また、今作では決着の付かなかった存在、氏綱について一寸補足を。
 何故彼がここに出てくるのか疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。
 でも実はこの設定は公式設定に準拠した(湾曲拡大解釈とも言います)ものだったりします。
 サクラ大戦原画&設定資料集をお持ちの方は、人物辞典の北条氏綱の項を御覧になって下さい。
 意味深な書き方をしているでしょう。
 これが今回の発想の大元です。
 彼と真之介の決着は次回まで持ち越しになってしまいました。
 私自身、まだ明確な答えを出せていない部分です。

 さて、
 当初予定の三倍の分量、六ヶ月間執筆し続けていささか燃え尽きておりましたが、ようやく動いております。
 現在取り組んでおりますもみじ小戦が終わりましたら、続編にして完結編となる第七弾「虚ろなる貴方無き世界(仮名)」を考え始めます。

 最後になりましたが、この呆れるほど長い作品に感想をつけて下さり支えて下さった
 紀州人さん、塵都さん、桜嵐さん、桐島翔さん、ひでじいさん、美咲緑さん、イカルス星人さん、ジュンさん、ごぢうりさん、ミュラー大将さん、さくらとお食事さん、真神樹さん、淳治さん、フェルさん、翔べ!風組さん、武臨さん、葉月文さん、すぺらんかーずさん、みあみあさん、chitoseさん、まいどぉさん、MOSさん、Aiさん(順不同)
 渚の名前の使用を快諾して下さった湘南なぎささん、
 多数の箇所の校正を行って下さいましたごんべさん、
 直に会って楽しみにしていると励まして下さったオフ会メンバーのみなさん、
 サクラ大戦BBSとこのサイトに出入りして読んで下さった全ての方々、
 発表の場を与えて下さり、またサクラ大戦というゲームを世に送りだして下さったセガ・エンタープライゼス様、
 サクラ大戦という素晴らしい物語を作って下さったレッドカンパニー様、
 皆様に心からの感謝を申し上げさせていただきます。
 本当にありがとうございました。


 平成十一年九月二十四日
 平成十一年十二月四日追記
 平成十二年八月三十日再追記

 夢織時代







おまけ


初出、SEGAサクラ大戦BBS平成十一年九月二十四日



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