戦慄の扉は開き
追憶其の五
第七章 終わらない夜が頬を撫で


第六章 夜の奥底で永久に眠れ


 自室に戻ると、琴音の置き手紙に地図が書かれてあったので、すぐにそちらへ向かった。
 心霊術専門だという琴音の紹介した医者は、何らかの予想はしていたが、男装の女性であった。
 この程度で済んで良かったと、思ってしまう自分が少し怖かったが。
 とはいえ、腕は確かで、あやめの容態は安定したという。

「ほら、あやめちゃんについていてあげなさいよ」

 という、斧彦の言葉に従い、あやめが眠っている病室にいることにした。
 数時間前に比べて、確かに状態が良くなっているようだ。
 少なくとも、このまま死んでしまうのでは、という状況からは脱している。
 ただ、眠りは深い。
 心霊術士が言うには、自然界の大気の動きと波長を合わせていると言うことだった。
 この方が、消耗した霊力の回復にはいいらしい。
 真之介が入ってきても、あやめは何の反応も示さなかった。

「あやめ・・・早く、目を覚ましてくれ・・・」

 今日だけで、何人屠ったかわからない腕が痛む。
 限界以上に霊力を使ったため、身体の内が、乾いたように空虚だった。
 死霊魔術で魔力を補った頭が、酔っているかのように重い。

 明日になれば、それらの事件が「正体不明の魔物」の仕業として処理されることを、このときの真之介はまだ知らない。

 そして・・・

 闇の救世主に、そんなことを言われては私は悲しいよ・・・。そう、君のことだ、山崎真之介君・・・。

 あっちの男の方は、正真正銘の魔術士だって言うしな・・・。

 私の目に狂いはなかったようだな・・・・。やはり貴様は、人外の化け物だ・・・!


「あやめ・・・・目を覚ましてくれ・・・。微笑んでくれ・・・。そうでないと俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 魔物・・・
 化け物・・・

「自分が、人間だと・・・信じられそうにない・・・・・」

 いや、もし万が一こいつが倒されたとしても・・・

 水地の高笑いが聞こえてくるようだった。

 外は夜明け前。
 しかし、朝はまだ遠い・・・。
 果てしなく遠い・・・。

 米田と一馬が、急を聞いて帝都に戻ってくるのは、その日の夜遅くのことである。




終章 闇色の曙


初出、SEGAサクラ大戦BBS平成十年十二月七日



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