戦慄の扉は開き
追憶其の五
第七章 終わらない夜が頬を撫で
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自室に戻ると、琴音の置き手紙に地図が書かれてあったので、すぐにそちらへ向かった。
心霊術専門だという琴音の紹介した医者は、何らかの予想はしていたが、男装の女性であった。
この程度で済んで良かったと、思ってしまう自分が少し怖かったが。
とはいえ、腕は確かで、あやめの容態は安定したという。
「ほら、あやめちゃんについていてあげなさいよ」
という、斧彦の言葉に従い、あやめが眠っている病室にいることにした。
数時間前に比べて、確かに状態が良くなっているようだ。
少なくとも、このまま死んでしまうのでは、という状況からは脱している。
ただ、眠りは深い。
心霊術士が言うには、自然界の大気の動きと波長を合わせていると言うことだった。
この方が、消耗した霊力の回復にはいいらしい。
真之介が入ってきても、あやめは何の反応も示さなかった。
「あやめ・・・早く、目を覚ましてくれ・・・」
今日だけで、何人屠ったかわからない腕が痛む。
限界以上に霊力を使ったため、身体の内が、乾いたように空虚だった。
死霊魔術で魔力を補った頭が、酔っているかのように重い。
明日になれば、それらの事件が「正体不明の魔物」の仕業として処理されることを、このときの真之介はまだ知らない。
そして・・・
闇の救世主に、そんなことを言われては私は悲しいよ・・・。そう、君のことだ、山崎真之介君・・・。
あっちの男の方は、正真正銘の魔術士だって言うしな・・・。
私の目に狂いはなかったようだな・・・・。やはり貴様は、人外の化け物だ・・・!
「あやめ・・・・目を覚ましてくれ・・・。微笑んでくれ・・・。そうでないと俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔物・・・
化け物・・・
「自分が、人間だと・・・信じられそうにない・・・・・」
いや、もし万が一こいつが倒されたとしても・・・
水地の高笑いが聞こえてくるようだった。
外は夜明け前。
しかし、朝はまだ遠い・・・。
果てしなく遠い・・・。
米田と一馬が、急を聞いて帝都に戻ってくるのは、その日の夜遅くのことである。
終章 闇色の曙
初出、SEGAサクラ大戦BBS平成十年十二月七日
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