戦慄の扉は開き
追憶其の五
第六章 夜の奥底で永久に眠れ


第五章 真夜中を振るわせて

「隔壁を開けろと言っている!!」

 呪文が通信を通しても効くのならば、とっくに相手を殺しているような声で、通信機へ向かって叫んだ。
 最下層の昇降機の直前にもうけられた隔壁の前である。

 その隔壁が、閉ざされていた。

「最下層で巨大な魔物が出現したとの報告が入っている。規則に従い、隔壁を閉ざしているのだ」

 真之介の剣幕にやや声が震えているが、どうやら通ってきた詰め所の隊長らしい。

「奴ならば一旦封印してやったわ!とっとと開けろ!」

 心底いらだっていた。
 一分、一秒を争うかも知れぬ事態だというのに・・・・!!

「安全確認がとれるまで、いかなることを言ってこようが開けるなと、上からの指示が下っている。敵前逃亡の可能性もあるからな」

 虎の威を借りて、やや尊大になった返答が、少し遅れて返ってきた。

 上からの指示・・・・・だと・・・!?

 いくら何でも早すぎる。
 研究者達が逃げ帰った時間を考えても、そこから連絡が最速で行ったとしても、対応を協議しているまっただ中ぐらいのはずだ。
 対応を検討せずに、報告を受けた者が独断で命令を出しているのだろうか。
 しかし、そんな融通が利くほど帝国陸軍の組織は柔軟ではないはずだ。
 そもそも、軍とは完全に階級社会なのである。
 対降魔部隊が、例外中の例外なだけで。
 その辺の下士官か、少々の士官級の人間が、独断で動けるはずがない。
 陸軍・・・・。

−−−−−君たちは、陸軍内部の覚えがあまり良くないようだね−−−−−

 ふと、水地のつぶやいた言葉が思い出された。
 陸軍内部・・・。

−−−−−軍内部の方から、君らを始末してくれと言われたのがそもそもの発端だったのだ−−−−−

 まさか・・・。
 まさか・・・、そういうことなのか・・・!?

 水地の言うことに、間違いはなかったのか・・・。
 つまり、初めからここに閉じこめて、魔物に殺させるつもりだったのだ・・・!

「・・・・・・・・・死にたくなければ、隔壁を開けろ」

 自分にこんな声が出せるのが不思議なくらい、呪詛に満ちた声が出たものだ。
 多分、今なら視線だけでも相手を殺せるという自信がある。
 さすがに、見えはしていないだろうが、雰囲気を感じとってか、向こうが絶句する。
 あわてて話し合っているような声が、しばらくしてから聞こえたが、
 ややあって。

「変更は認められん。文句を言えるなら魔物の首でも取ってこい」

 震えているような声では、尊大な言い方もあまり成功しているとは言い難いが、それだけ言い終わると、一方的に通信が切られた。
 音のしなくなった通信機を前に、真之介はしばらく立ちつくしていた。
 胸の奥に暗い炎が灯る。
 そのまま、その炎で全てを焼き尽くしてやりたいとの思いが頭をよぎったが、
 いまは、駄目だ。

 かろうじて呼吸は聞こえるあやめの存在感が、真之介を踏みとどまらせた。
 目の前に立ちふさがる隔壁に、真之介は光刀無形を抜いた。



***********************************

 詰め所の中は落ち着かなかった。
 下層から逃げてきた研究者達から魔物が出現したとの報告を受け、連絡した直後に、隔壁の封鎖と、昇降機の電源切断の命令が下っていた。
 あまりに手際が良すぎる気もするが、陸軍少将の名前で出されてきた命令だったので、まずそれに間違いはないのだろう。
 隔壁が閉められ、一応の安全は確保されたことになる。

 とはいえ、この詰め所は、下層で魔物が発生したら真っ先にその被害を受ける場所である。
 隔壁で守られているとはいえ、自分の足下に魔物がいるという気分は決して落ち着くものではない。
 もし、あの強固な隔壁がなかったら、と考えるだけでも恐ろしい。
 だから、下に人間が残っていようとも、隔壁を開けるなど論外だった。

 数時間前に下から開けろと言う脅迫があったが、それを拒否するだけの正当な理由があると信じていた。

 隔壁を開けてはならない。
 開けなければ大丈夫。
 隔壁が破られるはずがない。
 ここは安全なのだ。
 そのはずなのだ。
 だが、しかし、緊張感がとれない。

「しかし・・・男の方はどうでもいいとしてだ・・・」

 その緊張感から来る、重苦しい沈黙に耐えかねたのか、兵の一人が軽い口調で私語を口にした。
 本来叱責する立場にいる隊長も、それに何だかほっとしたものを感じて、放っておいた。

「あの女の子まで閉じこめるってのはもったいないよな」

 中尉と少尉とは言っても、この場にいる人間は全員、大なり小なり、二人より年上であった。

「それは言える。魔物にやられるのはもったいないよなあ」
「魔物に食われる前に、俺が食いたかったよ」

 緊張感をはねのける意味もあるのだろうが、下品な笑い声がいくつか上がる。

「しかしよ・・・、どっちにしても、あの、化け物部隊の一員だぜ。まともな人間なはずがないだろ・・・・」

 薄気味悪そうに、別の兵がポツリとつぶやいた言葉に、笑い声がぴたりと止まる。

「う・・・そりゃあ、まあ・・・」
「そうだよな・・・何だか得体の知れない術を使うっていうし・・・」

 現代の帝都に生きているものの多くは、自分たちの街が、その、「得体の知れない術」とやらによって支えられていることを知らない。
 ただ、自分たちとは違うという事実。
 自分たちに理解できないと言うことが、浅はかな排斥、差別につながる。

「化け物部隊か・・・」
「人間だって言う保証もないぜ」
「そうだよな・・・でなきゃあんな年で少尉になれるわけないし・・・」
「あっちの男の方は、正真正銘の魔術士だっていう噂だしな・・・」

 敵を作り、ののしることで、より強大なものによる恐怖から逃れようと言うのか。
 次々と相槌を打つものが現れる。

「やっぱり、魔物と化け物で、相打ちになってくれると安心だよな」

 その言葉に、何だかほっとしたような笑いが起こる。

 その笑いが、
 凍り付いた。

「命令したのは、誰だ・・・」

 真之介が、抜き身の光刀無形を手にしてそこに立っていた。
 拳の間から、こびりついた血の上にさらに血が滴っている。
 昇降機四つ分、あやめを担いで鋼線をよじ登ってきた代償だった。
 九つの隔壁をぶち抜いてきても、さすがに光刀無形には、刃こぼれ一つなかったが。
 ざんばらに乱れた銀髪の間から焼き刺す視線に、全員声一つ上げられず立ちすくんでいた。
 その背中には、自分たちがさっきけなしていた少女が、傍目には死んでいるようにも見えた。

 その様は、地獄からはい上がってきた魔物に見えたかも知れない。
 誰一人、真之介の質問には答えない。
 答えられない。

 微かに眉をひそめてから、光刀無形を一閃させる。
 一番近くにいた兵士の肩の上から、塊が飛んだ。
 次の瞬間、視界に鮮やかな赤が加わった。
 無論、あやめに降りかからせることはない。
 飛び散ってきたいくらかの飛沫は、自分で受け止める。

「ひ・・・・・」
「う・・・」
『うわああああああああああああああっっっっ!!!』

 それが、たがを外すきっかけとなった。
 悲鳴とも、絶叫とも、怒号とも・・・とにかく、それらが一体になったような声が盛大に合わさった。
 逃げ出そうとする者もいたが、腰が抜けたのか、その場でもがくだけだった。

「化け物・・・か・・・」

 喧噪の中、真之介のつぶやきは誰の耳にも入らなかったが。
 とりあえず、近くでもがいていた兵士の首根っこをつかんで吊し上げる。
 丁度というか、運良くというか、この詰め所の隊長だった。

「命令は、どこから来た・・・?」

 こいつは、通信機でのやりとりの時、「上からの指示」と言った。
 管理部ではなく、上級の士官である可能性が高い。
 独断でここまでのことが出来るとなると、かなり上級だろうが。
 それを確かめて置かねばならない。
 向こうに、第二手を打たれる前に。

「・・・ば・・・ばけ・・・もの・・・」

 聞いても恐怖におののくばかりなので、顔面の中心を気絶しない程度に殴りつけた。
 鼻血を盛大に吹き出しながらも、かろうじて目が正気のそれに戻る。

「誰の・・・命令だ・・・!」

 今度は素直に言うことを聞いた。
 あたふたと命令書を取り出す。
 こういうものを無造作にポケットに入れているのも、そも問題なのかも知れないが、今はかえって好都合だった。
 命令書には、真之介もかろうじて知っている水無月少将という名が書かれてあった。
 米田と何度か衝突しかけている命知らずな少将だったと記憶している。

 なるほど・・・俺たちだけでなく、これを機に、対降魔部隊共々、目障りな米田を失脚させる腹か・・・。

「も・・・もう・・いいだろう・・・離してくれ・・・」

 意図せずに、吊し上げたままだったものが、哀願するような声を上げる。

「そ、そうだ・・・、俺たちはただ命令されただけなんだ」
「別に俺たちは何もやっちゃいない・・・」

 先ほどまで嘲笑をあげていた口から、媚びへつらうような声が次々と上がる。
 真之介は吐き気を覚えた。
 醜い。

 真之介が黙り込んでいるのを、迷っているとでも思ったのか、口々に畳みかけるように言葉を連ねてきた。

「もういい」

 ぴしゃりと言い放った声に、言葉の雨が止まる。
 助かったと思ったのか、兵達の顔に安堵するような表情が浮かびかけた。

「死ね」

 その表情が、即座に恐怖に転落する。
 その恐怖も、長くは続かなかったが。
 きっかり残りの人数分だけ、光刀無形が閃いた。

 物体と化したそれらをすぐに粉々にして、抽出されたエネルギーだけを魔力にして真之介は回収した。
 水地がやっていたことの見よう見まねである。

 むせ返るような臭気に満ちた詰め所を後にして、真之介は地上への昇降機へ急いだ。
 背負っていたあやめを前に抱きかかえて、今し方補給したばかりの魔力で自分に魔術をかける。

「来たれ、振夜の訪問者よ・・・」

 真之介の背に、不思議な形状の翼がおぼろに出現する。
 昇降機の縦穴を利用して、一気に地上へと飛び上がった。
 自分の姿が何に見えるのかは、あえて無視して。


 地上につくと、すでに深夜であった。
 翼をしまい、次の行動を、と思ったところで、

「きゃああ、真ちゃんじゃない!」

 と、野太い男の声が聞こえた。

「あ、あんたか・・・」

 太田斧彦伍長。
 下士官だが、その性格のため、陸軍屈指の有名人である。
 見上げるような大男なのだが、心は花の乙女というから、あまりに不釣り合いである。
 しかし、基本的に善人であった。
 苦手であるが、嫌いな人間ではない。
 そして、もう一人。

「山崎中尉が閉じこめられたと聞いて、何とか出来ないかと思って来たのですが、不要でしたか」

 清流院琴音少尉。
 自己陶酔家で、価値基準を美のみに置く男だ。
 喜んでいいのか解らないが、この男の基準によると、あやめも真之介も、尊重すべき美の対象であるらしい。

 どこがどうしたのか知らないが、陸軍の中でも屈指の有名人二人は、妙に気があっているのか、行動をともにしていることが多い。
 二人とも、いいところに来てくれたものだ。

「いや、頼みがある。お前たちが一番信用できる医者に、出来るだけ早くあやめを診てもらえるようにしてくれ」
「藤枝少尉が、ですか・・・?」

 真之介が抱きかかえているあやめの様子を見て、二人は表情を変えた。
 一瞬、死んでいるのではないかと思ったくらいひどい状況だと言うことは、二人も霊力を持っているので察することが出来た。

「これは・・・陸軍病院では確かに難しいですか」
「危険性もあるので、あそこはさけたい・・・」

 詰め所の兵は皆殺しにしておいたので、自分とあやめが脱出したということはまだ知られていないだろうが、あらかじめ手を打たれている可能性もある。
 そんなところにあやめを入院させるわけにはいかなかった。

 琴音も、詳細までは解らなかったものの、事態を察してくれたようだ。
 性癖に問題こそあれ、この二人はきわめて優秀なのである。

「わかりました、いいところがあります」

 その言葉に安心して、あやめを斧彦に預ける。
 ほかの男にあやめを任せるのは嫌だったが、不思議とこの男だと、嫌ではない。
 本人に言ったら、乙女に対してなんてことを、とか言うのだろうが。

 いぶかしんだのは二人の方である。

「!?中尉もご一緒では?」
「琴音、もう一つ聞きたい。こいつの居場所がわからんか?」

 そう言って、詰め所の隊長から奪っておいた命令書を見せる。
 琴音は、どこをどうしているのか知らないが、実に広い情報収集能力を持っている。
 今も、自分たちが閉じこめられたという情報を、こんな夜中だというのに調べ上げてきてここに来てくれていた。
 おそらく、知っているだろう、と真之介は考えたのだ。

 確かに琴音は知っていた。
 しかし、さすがに琴音は一瞬迷った。
 命令書の内容からして、真之介が次に何をしようとしているか推測がついたからだ。
 だが・・・、真之介とあやめという、二人の美を消そうとする醜い行為に及んだ時点で、階級に関わらず、死に値すると判断した。

「上野の高級料亭、つむぎ、です。連絡は後で部隊の部屋に入れます。・・・御武運を・・・。行くわよ、斧彦!」
「ええ、たとえ真ちゃんが、あやめちゃんしか見ていなくても、愛する人の愛する人に尽くすのもまた愛よっ!」

 普段なら逃げ出したくなるような言葉だが、裏表のない二人と話せたことが、今の真之介にはささやかな救いだった。

「頼む・・・・」

 あっという間に見えなくなる二人を頼もしく思いながら、真之介は再び動き出した。
 こちらが脱出したと知られる前に片を付けなければならない。
 自分たちを殺そうとしたと言うことは、すでに対降魔部隊を解散させるための手続きが終わっている可能性もあった。
 もっとも、本日昼の段階でまだ発効していなかったから、翌朝までに片を付ければ何とかなるかも知れない。
 そう信じるしかなかった。

 自分たちの、対降魔部隊を守るために・・・。
 いや、それは建前かも知れない。
 あやめを殺そうとしたという事実だけで、真之介は既に、水無月少将を生かしておく気は無かった。 


 料亭、つむぎでは、祝宴が開かれていた。
 命令書を出した本人・・・水無月少将を初めとする、軍の派閥の幹部が十数名。
 対降魔部隊の解散及び、米田中将失脚の前祝いだった。
 二人になってしまえば、もはや部隊として認められない。
 さらに、降魔出現の折りに、帝都防衛の任を果たせなかったことで、対降魔部隊長としての背任行為を追求し、降格。
 彼にしてみれば、完全な台本だった。

 ただし、彼は知らなかった。
 水地が、彼をも欺いていたことを。

 彼は、水地が降魔を操れると思っていた。
 水地との契約では、この後降魔の発生を抑えることになっていた。
 もちろん、水地の目的は帝都の破壊であり、水無月など餌の供給先ぐらいにしか思っていなかったのだから、約束を守るつもりなど、頭からなかったのだが。
 そんなことは知らず、そしてまた、自分たちに迫っているものの存在も知らずに、彼らは祝宴に浸っていた。

 ふと、酒が切れる。

「おい、酒だ」

 叫ぶが返答がない。
 少将が抱え込んでいた女が、あたふたと酒を取りに障子を開けて、
 その場に眠り込んだ。

「おい、こら、貴様、眠るにはまだ早いぞ!」

 一応、十二時を回っているのだが。
 彼らが事態の深刻さに気づいたのはこの後だった。
 縁側を見ると、配膳の女が眠りこけて、盆の中の料理がその場にまき散らされてあった。
 庭先では、猫や、コウモリすらも地に転がって眠っていた。

「ああ?なんだこりゃあ・・・」
「一党引き連れて宴会とは、丁度いい・・・・」

 庭の暗闇が喋ったように聞こえたかも知れない。

「誰だあ?」
「答える必要が、あるのか」

 足音もたてずに、光の届く範囲に出ていく。

『!!』

 全員惚けた顔になって、何人かはあわてて念仏を唱え始めた。

「安心しろ」

 苦笑を浮かべる気にもなれずに、無表情のまま言い放った。

「亡霊では、ない」

 その言葉と同時に一閃した刀が、手近な二人を通り抜けていった。
 叫び声を上げる間もなく、永遠に眠ることになる。
 その衝撃でようやく事態が飲み込めたらしい。
 周り全てが眠っていることも、こいつならばあり得ると思ったのだろうか。
 事実、これは真之介が結界を張ってしかけた魔術によるものなのだが。

「や・・・山崎真之介・・・!信じられん!水地の降魔を倒してきたというのか・・・!?」

 さすがに、権謀術数を使うとは言っても、この階級まで上ってきただけのことはあり、水無月少将は即座に剣を手に取り、構えた。
 周りの者も、あたふたと銃や剣を構えようとする。
 半分くらいは、腰が引けてまともに立ってはいなかったが。

「ここまで生きてやってきたことは誉めてやろう。そしてもう一度、死にに来たこともな!」

 水無月のその言葉を号令として、銃が一斉に火を噴いた。
 しかし、当たりはしない。
 真之介は防御魔法をかけておいたし、酔った頭で撃ってもそう当たるものではないのだ。

 その後は、屠るという言葉が適切だろう。
 人数差があろうとも、したたかに酔っている上に、最初の一撃を見せつけられて腰が引けている。
 その上、銃が効かないとあっては、十人が百人であったとしても、真之介の敵ではなかっただろう。
 気がつくと、動いているのは水無月一人になっていた。

 意識したつもりはなかったが、好都合だった。
 最も、恐怖を与えることが出来るのだから。
 水無月は、逃げようとしたが、ふすまは鉄で出来ているかのように、びくともしない。
 真之介は、全員逃さぬつもりでここに襲撃をかけたのだ。

「ふ・・・・・・私の目に狂いはなかったようだな・・・・。やはり貴様は、人外の化け物だ・・・!」

 血走った目でわめき散らす。
 まだ正気を保っているのだろうか、構えはしっかりとしていた。

「貴様にも・・・米田にも・・・栄光ある帝国陸軍を、これ以上踏みにじらせるものかあっっ!!」

 怒号とともに、斬りかかってきた水無月の刀を、一撃で叩き折った。
 やけにゆっくりと落ちていくように見えた、刃の先端を眺めながら、水無月の顔は絶望で満ちていった。
 その絶望の表情を、光刀無形が真っ二つにした。



 そして、誰も知らなかった。

「生き残ったか。山崎真之介・・・」

 遠く離れた赤坂の地下から、それを「見て」いた「戦神」は、満足げにつぶやいた。
 水地と水無月を失ったのは痛いが、それ以上の収穫かも知れない。
 いずれ、手駒として使える日も来よう。
 今は、対降魔部隊を存続させておいた方がいい。

 水無月が各所に手回ししていた書類が、全て彼の手元にあった。

「ふっ・・・・」

 含み笑いとともに、その束に火がつき、ゆっくりと灰になっていった。

「いずれ、返してもらおうか」

 それはずっと、先の話である。






第七章 終わらない夜が頬を撫で


初出、SEGAサクラ大戦BBS平成十年十二月七日



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