紐育の悲しき三角関係
終節
轟華絢爛第一巻反逆小説


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 帰ってきた帝劇では、みんながみんなへとへとに疲れていた。
 だが、両玄関に仕掛けられていた爆弾は既に紅蘭によって解除されており、帝劇は表向き何もなかったように見える。
 明日の新聞では、帝劇でちょっとした不祥事があったことと、初公開された最新鋭防災設備が記事を飾ることだろう。

 ちょっとだけ、いつもと違う夜だった。
 多くの人々にとっては。

 さくら、すみれ、カンナ、アイリスの四人は握手疲れで手が痛い。
 椿と由里は記念品を配り終えて全身くたくたになっていた。
 あやめは早速陸軍に出向いて、極秘事項公開に関して弁明とその後の処置に向かっている。

 だが、傷つきながらも帰ってきた大神とマリアの姿を見て、皆がほっとしたのは言うまでもない。
 もっともほっとした直後に、大神はみんなの手で医療ポットに放り込まれることになってしまった。

「これ、裸にならないといけないから嫌なんだよなあ」

 乙女のシャワー室を覗いた経験のある男にそれを言う権利はない。
 実際のところ、医療ポット無しでは回復に何日かかるか分からない怪我であったので、大神はおとなしく従うことにした。

「支配人、マリア・タチバナただいま戻りました」
「おう」

 酒をかっくらっている米田からは、刀を振るい魔術を止めたときの猛々しい雰囲気は微塵も感じられない。
 何があったかとも聞かない。
 どうなったとも聞かない。
 ただ、マリアの表情を見て頷いた。

「女優の顔に怪我はさせなかったようだな。
 まあ、あいつなら隊長合格だろう、マリア」

 言われてマリアは、結局自分が怪我らしい怪我をほとんどしていないことに気がついた。
 手足を少々すりむいた程度だ。

「はい」

 隊長がいる。
 隊長が生きている。

 あなたたちのことは忘れない。
 私のために死んでいったあなた達のことは忘れない。
 でも、私は生きていきます。
 あなたたちと約束したとおりに。

 マリアは、笑えた。
 全ての過去から解放されたような、素敵な笑顔だと米田は思った。






初出、SEGAサクラ大戦BBS 平成十一年十二月二十九日



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