全てが終わったその翌日。
彼はギターを奏でていた。
何のために奏でているのか。
自分でもわからないまま。
屋根裏にたちこめた埃を、
旋律がかすかに揺らせていく。
ふと、揺らぎがその向きを変える。
よお、やっぱりここか。
あいつがやってきていた。
稀ではないが、珍しい。
いいのか、こんなところで油を売っていて。
お前は毎日の雑用があるだろう。
まあ、そう言うな、今日くらい。
そう言ってお前が取りだしたのは、
一升瓶と杯が二つ。
褒美を兼ねてくれてやる、だそうだ。
なるほどそうだな、まずは乾杯と行くか。
帝都に平和が戻ったことに、
俺たちの居場所を守れたことに、
そしてお前の誕生日に。
は。
なんだ、自分で忘れていたのか。
どうやらそうらしい。
自分が生きていることも忘れていたのか、
自分が生きてきたことも忘れていたのか。
だが、今なら思い出せる。
自分はここまで生きてきた。
そしてこれからも生きていく。
ギターを貸してくれないか。
お前ほどではないができなくはない。
そう言ってお前が奏でたのは、
ずいぶん前に、俺がおまえに聴かせた曲。
ずいぶんましになったろう。
音感は鍛えられてきたからな。
この旋律は幻ではない。
自分は生きている。
俺より二ヶ月早く二十三だ。
年長者を敬えよ。
暖かい旋律。
飲み干した酒と同じ味がした。
初出、SEGAサクラ大戦BBS 平成十年十一月十一日
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