地を震わせて、足音が響く。
むせぶような、足音が響く。
確かに人が近づいてくる。
彼の演奏に誘われてではなく、
ただ真っ直ぐにこちらへ来る。
旋律の底に、足音が響く。
旋律と共に、足音が響く。
同じ音色で奏でて、
同じ音色で叫んで。
どちらからともなく、音が止まる。
一人の男がそこにいた。
精悍にて強靱なる大男。
その手にあるは武器ではなく、
腕一杯の菊の花。
誰だ、お前は。
男が問うた。
彼は男を知っている。
だけど男は彼を知らない。
俺は流れの大道芸人。
今日ここで逝った女性のために、
涙の代わりに曲を流そう。
そうか、おめえも泣いてくれるか。
散らばっている金属片。
一番大きな物はこれか。
平らになった、爆発の痕。
その中心にそれを立てる。
菊の花をそっと供える。
きっとかき集めてきたんだろう。
武骨な男が涙の限り。
彼が旋律を弾き始めると、
男の声が重なった。
語るのではなく、歌うのでもなく、
悲しむ声を、叫びにして。
奏でながらも彼は思う。
俺がああして死んだなら、お前はああして泣いてくれるか。
俺がああして死んだなら、貴女はああして泣いてくれるか。
彼のいるところは影。
光の裏の影。
表からは見えない。
見えてはならない。
涙と叫びの協奏曲。
月のみが参列して、聴いていた。
初出、SEGAサクラ大戦BBS 平成十年十一月十日
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