月から降るように、旋律が響いていた。
それがあることで、なおのこと静寂を感じさせる。
そんな旋律だった。
静かに、ただ静かに。
悲しくはなく、だが哀しい旋律だった。
奏でられているのは一本のギター。
奏でているのは一人の青年。
纏っている黒い服は、闇に沈まない。
それが、意味を持っている黒だから。
死者を悼む黒。
去り、そして帰らぬ者への手向け。
位置こそ違え、同じ場所にいた、
場所こそ違え、同じ位置にいた、
一人の女性への。
敵であった。
直接剣を交えたわけではない。
ただ、対立する組織にいた。
彼は彼女を追っていた。
同じ場所にいて、追っていた。
追いついたのは、昨日。
永遠に別れたのは、今朝。
直接話をしたわけではない。
だが、彼女のことはよく知っていた。
影の中にあって、謀り事をよくし、
そして、迷い続けた彼女。
彼女は出来たはずだった。
簡単に。
彼の仲間を陥れ、死にからめ取ることを。
彼女は懐に潜り込んでいたのだから。
彼女はそこではしなかった。
仮面を取り去りただ一度、外でことを起こしただけ。
彼女がそれをしなかったから、
彼は彼女に追いつけなかった。
彼女が二度それをしたとき、
彼は彼女に追いついた。
影の中にいて、そのまま。
彼女は、彼と同じかも知れない。
日の当たらぬところにいて、
裏の世界にいて。
同じ場所にいた。
同じ位置にいた。
憎んではいなかった。
敵であった。
追い続けていた。
仲間であった。
その死の場所に佇んで、彼は奏でていた。
月へ昇るように、旋律が響いていた。
初出、SEGAサクラ大戦BBS 平成十年十一月十日
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