葬礼の旋律・第一曲
月光

加山誕生日記念前日

月から降るように、旋律が響いていた。
それがあることで、なおのこと静寂を感じさせる。
そんな旋律だった。
静かに、ただ静かに。
悲しくはなく、だが哀しい旋律だった。
奏でられているのは一本のギター。
奏でているのは一人の青年。
纏っている黒い服は、闇に沈まない。
それが、意味を持っている黒だから。
死者を悼む黒。
去り、そして帰らぬ者への手向け。
位置こそ違え、同じ場所にいた、
場所こそ違え、同じ位置にいた、
一人の女性への。

敵であった。
直接剣を交えたわけではない。
ただ、対立する組織にいた。
彼は彼女を追っていた。
同じ場所にいて、追っていた。
追いついたのは、昨日。
永遠に別れたのは、今朝。

直接話をしたわけではない。
だが、彼女のことはよく知っていた。
影の中にあって、謀り事をよくし、
そして、迷い続けた彼女。
彼女は出来たはずだった。
簡単に。
彼の仲間を陥れ、死にからめ取ることを。
彼女は懐に潜り込んでいたのだから。
彼女はそこではしなかった。
仮面を取り去りただ一度、外でことを起こしただけ。
彼女がそれをしなかったから、
彼は彼女に追いつけなかった。
彼女が二度それをしたとき、
彼は彼女に追いついた。

影の中にいて、そのまま。
彼女は、彼と同じかも知れない。
日の当たらぬところにいて、
裏の世界にいて。
同じ場所にいた。
同じ位置にいた。

憎んではいなかった。
敵であった。
追い続けていた。
仲間であった。

その死の場所に佇んで、彼は奏でていた。
月へ昇るように、旋律が響いていた。




初出、SEGAサクラ大戦BBS 平成十年十一月十日


第二曲へ


楽屋に戻る。
非常階段に戻る。
帝劇入り口に戻る。
夢織時代への扉に戻る。