鏡の色彩 カンナ誕生日記念 |
「あの野郎、武器持ちで思いっきり殴りやがって・・・」
帝劇名物とまで言われるすみれとカンナの喧嘩。
ああ言えばこう。
こう言えばああ。
売り言葉に買い言葉。
そして手が出る足が出る。
いつも通りの光景である。
気に入らないのではない。
腹立たしいのでもない。
喧嘩をしているとき、一番お互いを間近に感じる。
相手のことがよくわかる。
そうだ・・・。あたいは、すみれみたいになりたいと思っていたんだ。
空手家として名を馳せ、鍛え上げられた筋肉と身長で全てを圧するような自分の姿を眺めながら、
すみれの姿を思い浮かべる。
どこから見ても女らしい、社交界のトップレディとまで言われた女。
今の自分に後悔はしていない。
なぜなら、自分は桐島カンナだから。
だが、あんな、女らしい自分に憧れたこともある。
ああ生まれていたらと、思うときがある。
同じ頃、すみれも思っていた。
新興華族の娘として、かつてドレスで着飾って夜会で男どもの視線を集めた自分の姿を眺めながら、
カンナの姿を思い浮かべる。
どこまでも真っ直ぐで、子供たちを守る母性に満ちた女。
今の自分に後悔はしていない。
なぜなら、自分は神崎すみれだから。
だが、あんな、雄大な自分に憧れたこともある。
ああ生まれていたらと、思うときがある。
だから、喧嘩をしていようが、お互い誕生日を祝うのだ。
お互いに、限りない憧憬を込めて。
あなたのようにもなりたかったと思って。
「不細工なあなたが、これ以上傷で醜くならないよう、わざわざ最高級の傷薬を取り寄せましたのよ。感謝して下さいな」
いつもあなたは、私たちの前に立ち、私たちを守ってくれている。
「けっ、おめえのその顔につけた方がよっぽどいいんじゃねえか」
お前が誰よりも優しいことを、あたいは知っている。
お誕生日おめでとう。
次は、一月八日に。
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