帝都怪盗浪漫銀仮面 第七話「逆臣」前編 |
「帝都の中心にして最奥・・・、この街の霊的守護の中心であり、魔を浄化する機構。だが・・・」
帝都タワーの頂上から、光あふれる夜の帝都の街並みを眺めつつ、視線を動かしていく。
ぽっかりと、光がない領域がある。
そこだけは、街の光に染まらない。
江戸と呼ばれた頃から、それはそこにあった。
そこに住まう主人が替わったとしても。
「そこまで・・・か」
月の光だけが、等しく照らしている。
その城も、それを見つめる彼の銀の顔も。
* * * * * * * * *
「あんの大馬鹿野郎、なあにを考えていやがんだああああああっっっっっ!!!!」
「だーっっ!警部!予告状破かないで!」
手にした予告状に少し裂け目が入るか入らないか、塚本は危ういところで手を止めた。
ようやく届いた予告状と言うことで、これには警察の首脳部も関わるつもりらしい。
破くのはさすがにまずい。
「それにしても・・・何を企画しているかと思ったら・・・」
次の大安吉日の夜、
宮城宝物殿秘蔵の黄泉鏡をいただきます。
史上最大のスケールでお送りする銀仮面最大のイベントに、
警察諸君の協力を是非ともお願いいたします。
追伸、塚本君も頑張ってくれ給え
最後に、もう見慣れた紫の斜め十字紋がある。
「大安・・・というとあと五日ですね」
「仏滅にしろってんだ、こういう行事は・・・」
頭をかきむしりながら、椅子にどっかと座る。
たばこは、銀仮面を捕まえるまで願掛けて止めている。
「とうとう、逆賊に成り下がったか・・・」
ここまでの銀仮面の目標は、どこかすねに傷を持つような連中ばかりだったから、予告状が届いても楽しかったのだが、今回は裏切られた、という印象がある。
もちろん、久々の予告状そのものはうれしいのだが。
「で、警部、どうするんです。この予告状」
最近の予告状は警視庁宛ではなく、銀仮面対策課の塚本宛に届けられてきているのだ。
これの存在は首脳部もまだ知らない。
だがこの調子では新聞各紙にも送られているのだろう。
自分一人で片を付けられるならそうしたかったが・・・。
「しょうがねえ、報告するか」
予告状をひっつかんで警視総監のところに出向くことにした。
しかし、これまで高価な品物ばかり狙ってきた銀仮面が・・・、何故文化財に手を出した?
* * * * * * *
「黄泉鏡というのは・・・」
消灯時間前の作戦司令室で文献を調べていたさくらが報告する。
「伝承によれば、イザナギの神がイザナミの神を救うために黄泉に行って結局救えずに戻ってきたときに、黄泉から持ち帰った祭器だそうです。
ただ、古事記にも日本書紀にも記述がない上に、現物が確認されていないため、後世の作り話という説もあるそうです」
「三種の神器の一つではないの?」
「それは八咫の鏡。天照大神を天の岩戸から連れ出すときに使われた祭器ですわ」
首をひねりながら尋ねたマリアの疑問にはすみれが答えた。
「ま、そう言う伝承は眉唾としてだな・・・」
伝承を書いた人間が聞いたら激怒しそうな前置きをさらりといいつつ、カンナが尋ねる。
「ともかく、その鏡は宮城にあるんだな」
「銀仮面の予告状が正しければ、と言うことになりますけど・・・」
「それにしても妙やな。今までめっちゃ高価な物ばかり盗んでいた銀はんが、何でそんな文化財に手を出すんやろ?」
紅蘭の疑問は、今帝都でいち早く予告状を読んでいる人間全ての総意であろう。
「仮にも祭器・・・。何か力を持っているのではなくて?」
「えーっと・・・黄泉鏡は、・・・死者を行使する、または使役する力があるそうです」
すみれに言われて思い出したさくらが、報告書をめくりつつまるで自信なさそうに述べる。
「死者を・・・?」
「ふむ、読めたで!きっと銀はんは過去に恋人を亡くして、それを蘇らせようとしているんや!今までの金は多分結婚資金やで」
「おいおい、それじゃあすみれの立場がねえじゃねえかよ」
紅蘭の推論に、カンナは横のすみれをニヤニヤしながら見つめつつ反論とすら呼べない意見を述べる。
「カンナさん。誰の立場ですって・・・?」
「まあそうひがむなよすみれ。きっとこれが運命というやつさ」
苦笑する一同に対して、すみれ一人が表情を変えない。
「全ては、銀仮面に問いただせば済むこと・・・」
ゆらりと立ち上がり、米田に断りもせずに司令室をあとにする。
「五日後に、全ては明かになるはずですわ」
* * * * * *
「高村煎餅店のお煎餅はいかがですかー」
「さーあよってらっしゃいみてらっしゃい。帝都名物銀仮面饅頭だよー」
「さあ、警察に賭ける奴はいないかぁ?このまんまじゃ賭けにならねえぞー」
ワイワイガヤガヤ・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、これは・・・・・・」
当日の正午。
宮城前の警察司令本部に一足早く到着した塚本が見たものは、お堀を取り巻くように出来た人だかりであった。
翔鯨丸の発進でさえ見物のタネにしてしまう帝都の人々はたくましい。
さらに、新聞やラジヲで今日が予告の日だと大々的に告知された今回は、銀仮面を一目見ようと言う人々が帝都各地はおろか、関西や東北からも来ているようだった。
こうなると、警察本隊が来ても退かすのは不可能に近い。
「あの馬鹿・・・限度という物を知らんのか・・・」
実は塚本は、昨日からずっと不機嫌だったりする。
というのも。
「おーい塚本君、各門前の警備の指示に当たってくれ」
「へいへい」
警察は今回、五千人の警官をそろえたものの、宮城の中に入っての警備を許可されなかったのである。
宮城の警護は近衛軍で行うというのが宮城からの返答であった。
警察一同憤慨したものの、喧嘩を売れる相手ではない。
しかもすでに宮城には、近衛軍の最精鋭、方術士団によって結界が張られており、忍び込もうにも出来なかった。
誰もが口にはしなかったが、誰もが銀仮面には近衛軍を出し抜いて警察の活躍の場を作れと思っていた。
さて一方、花組の面々であるが、
「いやー、外は凄い騒ぎになっとるなあ」
実は宮城の中に入っていたりする。
忍び込んだのではなく、米田が裏から話を回して花組の入城を認めてもらったのだ。
「しかし、支配人が近衛方術士団長と既知の仲とはなあ」
「ねーカンナ、どいういうこと?」
「んー、あたいも詳しくは知らねえんだけど、今の団長の父親・・・まあ前の団長さんだな、その人と降魔戦争の時に一緒に戦ったとか言ってたなあ」
その米田であるが、万が一に備えて帝の警護に当たっていて、花組の面々がいる外周部にはいない。
帝の信が厚い米田ならではの特例である。
花組の面々も、宮城の秘密に関する中心部には入れず、堀のすぐ内側に位置する場所で控えていた。
一応、事態によってはある程度の行動が認められてはいる。
これには別に文句を言うつもりはない。
どこにいるにしても、銀仮面は必ず花組の面々に・・・すみれに会いに来るはずだろうから。
* * * * * *
夜になって、緊張はいやが上にも高まってきた。
銀仮面が来るとしたらおそらく空からだろう。
これまでがそうだったと言うこともあるし、地上は方術士たちの張る結界だけでなく、堀の水にも強烈な対魔浄化能力がある。
魔の者は、これに触れただけで大概のものは消滅してしまう。
二度の降魔戦争を、宮城がほぼ無傷で残れた理由の一つであった。
というわけで、方術士達も対空結界を強化している。
銀仮面の翼が滑空型と言うことは知られているので、高さを二百メートルまで上げられている。
帝都タワーから突っ込んできても跳ね返せるはずであった。
「よっしゃ、みつけるくん改の組立完了や」
ずざざざざざざっっ
巻菱邸での一件を思い出して、みんな一斉に引く。
「安心しいや、今回はもう動作確認済みや。それ、スイッチオン、と」
ブウンッ
小型霊子力レーダーに、巨大な円形の結界が表示され、画面の外から光点がゆっくりと近づいてきていた。
『!!』
「これは・・・」
「銀仮面・・・」
に、間違いあるまい。
しかし・・・
「何やて!?」
銀仮面とおぼしき光点は、結界を素通りしてしまった。
「この近くやで・・・。みんな気をつけ・・・」
紅蘭は言おうとした言葉を途中で中断した。
何かが聞こえたような気がしたのだ。
「何か・・聞こえませんか?」
「さくらさん、お静かになさって・・・」
六人とも息をひそめて、耳を澄ましてみる。
遠くに聞こえる堀の外の騒ぎに隠れるように、いや、それをも通すように聞こえてきたのは、聞き覚えのあるヴィオラの音色。
しかし、微かで、どこから聞こえてくるのか・・・。
すみれはふと、何かを感じて上を見た。
天頂近くに明るい星が見える。
・・・星、ですって・・・?
紫色に光る惑星など聞いたことがない。
「紅蘭・・・、望遠鏡をお持ちなら貸していただけません?」
「見つけたんか?すみれはん・・・」
「ええ・・・」
どこに持ってきていたのか、小型の高性能反射望遠鏡を手渡されて、その星をのぞき込んだ。
すみれがその姿をとらえたときに丁度、
一曲、終わった。
「円陣五仙、光翼・・・。
見つけて下さいましたか、すみれさん」
銀仮面の漆黒の翼に、今は紫の炎が取り巻いて羽ばたきもせずに浮かんでいる。
星のように見えたのはこの炎だった。
高度は数千メートルと言ったところか。
当然結界など無い高さである。
ヴィオラをシルクハットにしまい、それからシルクハットを一振りすると紫の薔薇の花びらがあふれんばかりに現れて、眼下の宮城へと舞い降りていく。
「刮目せよ、帝都の諸君。銀仮面の炎、ゆめ忘るるなかれ・・・」
堀の外から大歓声が上がった。
銀仮面の降らす薔薇の花びらを、みんなせめてもの記念にと手を伸ばしていく。
塚本は、用意しておいた弓矢で花びらを撃ち抜こうとも考えたが、余りの多さに止めた。
「制陣隊、結界を頭上に変更、七十秒後!
法射隊、斉射!目標銀仮面!」
春日方術士団長は歯ぎしりしながら矢継ぎ早に指示を下していた。
既に宮城全体に花びらが降り落ちて来ていた。
方術士団の中で霊力弾を撃てる法射隊が、一斉に気の塊を放出する。
シルクハットから二本の薔薇を取り出してからかぶり直し、その二本を眼下めがけて投げつけた。
「奥義・・・無陣零仙、流星・・・・・!!」
銀仮面の翼の炎が全身に伝わり、巨大な紫の火球となった。
「な、な、な、なんだありゃあ!!」
「来ますわ・・・!みんな、何かにつかまりなさい!」
火球はぐんぐんとその大きさを増している。
実際の大きさもあるが、銀仮面が落下、いや、突入して来ているのだ。
その炎の前に、方術士たちの法撃など砂の塊のように吹きちぎられていく。
「法撃中止!全霊力隊は上部結界に集中せよ!」
法撃が銀仮面にかすり傷一つつけられないことを見て、春日は方針を変更した。
丁度制陣隊が上部結界を張った直後に、銀仮面の投げつけた二本の薔薇が、彼の使う紋章そのままに斜め十字を成して突き刺さった。
宮城に降り立たせてなるものか・・・!!
天より迫る火球に対して、春日は心中で叫んでいた。
宮城上部に、霊力のないものでもはっきりと視覚出来るほど強化された結界が出現、そして、そこに向かって高速で突入してくる紫炎を、集まった人々全ては見た。
轟音と共に銀仮面が、先に突き刺さった薔薇の場所に激突した。
『うわあああああああっっっ!!!』
宮城全体が激震する。
結界が二度、大きく波打った。
三度目に波打とうかというときに、
数千万枚のガラスを一度に叩き割ったかと思うような壮絶な音を立てて、結界は木っ端微塵に消し飛んだ。
それに続く、地に響く音。
銀仮面が宮城に降り立ったのだ。
それを、最初から最後まで二重橋正面の司令本部で塚本は見ることになった。
「・・・・!」
立てかけておいた弓矢を掴むと、本部を飛び出した。
先ほどまで目に見えぬ存在感を示し続けていた結界は何も感じなくなっている。
「つ、塚本君、何をする気だ!?」
丁度そばにいた警視総監が、あわてて呼び止めようとするが彼の足は止まらない。
「近衛軍だろうが何だろうが、他の誰かに奴を渡してたまるものか!
銀仮面は・・・・、この半年追い続けた俺の宿敵だ!逆賊にでも何でもなってやろうじゃねえか!」
宮城側の通告した立入禁止の柵を蹴散らして、全力で駆けたまま正門を体当たりでこじ開けた。
不敬罪もいいところである。
立場上、警視総監は止めねばならなかった。
「十番隊から十二番隊までは、指示通り各門で群衆を止めておけ」
しかし幸か不幸か、彼も生粋の江戸っ子であった。
「それ以外の全警官に告ぐ!責任は全て私がとる!塚本警部に続け!
日本警察の誇りに賭けて、日本史上最強の盗賊を捕まえるのだ!」
号令と共に、そこまでの悶々と銀仮面の炎を眺めるだけの屈辱を跳ね返すかのように、四千人の警官隊が各門から宮城になだれ込んだ。
「・・・こんなことが・・・」
日本全土から集められた方術士団が、この一撃で半壊していた。
霊力で言えば花組の乙女達の半分にも満たないが、市井にいる術者より遙かに強力な彼らである。
それが、力を集中させていた結界を破られた反動で、半数以上が昏倒していた。
わざわざ突入を困難にさせるように注目を集めたのはこれがねらいだったのだ。
「陸戦隊!銀仮面の着地地点へ急げ!」
「だ、団長、もう・・・!」
「!!」
春日の指示は時既に遅かった。
ゆらりと、闇を切り裂くようにして紫の影が姿を現した。
その後ろには、格闘に長けた陸戦隊の精鋭達が全滅している。
もっとも春日の見たところでは、全員気に大きな乱れはない。
死者はゼロのようだ。
噂通りと言えば噂通りである。
銀仮面の予告した黄泉鏡を納める宝物殿を背にして、階段の上から銀仮面に声をかけた。
「逆賊、銀仮面に相違ないな」
「いかにも」
ひるみもせず、弁解もせず、銀仮面はうなづいた。
「私は、この宮城の警護を任ぜられた近衛軍方術士団長春日光介。
この宮城に侵入し、宝物を奪わんとする汝の正義を問う。如何に」
銀仮面は一歩踏み出した。
春日の周りにいる二十余名の方術士たちがびくっとなる。
銀仮面の実力は既に見せつけられている。
「ここにありて、人々を救わぬ罪を問いに来た」
銀仮面はかすれた声に感情を乗せぬまま告げた。
「帝都に君臨せし君らの下に、今生きることすら許されぬ者等がいる。その叫びを届けにきた。そして」
銀仮面の周囲に炎が爆ぜた。
「力を持ちながら戦場に出ず、うら若き乙女達を矢面に立たせるか!」
「汝の言は矛盾している。汝の糾弾せしことに、汝の欲する鏡は加担しよう」
「いかにもその通り。だが銀仮面は約束を違えぬ。盟約に従い、我はこれを果たす。
この帝都を覆す者の助けを成さんとし、同時に我は帝都に魔が跳梁することを望まぬ・・・」
「生きながらにして意志無き亡者と化したか、銀仮面よ」
春日は呼吸を整え、霊力を練り上げる。
「私は生きている・・・」
銀仮面のその言葉は、やけにはっきりと聞こえた。
「私は今、ここにいる・・・」
「先ほどの問いに答えよう銀仮面。我らが守るはこの国そのもの。汝のごとき具現化した魔だけではなく、世界よりこの国にたどり着いた者等を浄化するが定め。
我らの本質は、決して守りより逸脱してはならぬもの。それが答えだ」
「承知している」
銀仮面の答えは意外なものだった。
マントを振り払い、再び黒き翼を現して、続けた。
「それでも私は告げに来たのだ。見よ、そして忘るるなかれ!」
「忘れはせぬ・・・滅びをくれてやろう、銀仮面!」
瞬時にして、二人が静から動へと転じる。
空中で交錯すること三度。
炎と霊力が激突し、交点にさながら稲妻が生まれるかのようだ。
バッ・・・
宝物殿の前の広場に立ち再び向かい合う。
彼我の距離は五メートルといったところか。
「この炎・・・、妖力だけでないな・・・銀仮面・・・」
春日は二カ所の焦げ跡のついた方術服を、視線は銀仮面から離さずに手で確認しつつ尋ねた。
息が荒い。
銀仮面の力は想像以上だった。
交錯の間に放たれた眠りの術に耐えてはみたものの、霊力による接近戦ならばあると考えた勝算をこれは訂正せざるを得ない。
そしてそれ以上に、純粋な魔であれば春日の霊力はもっと効果があるはずだった。
攻防どちらに関しても。
やはり・・・
「元は人間か」
「そうだ・・・無力だった・・・」
仮面の下の銀仮面の表情が、何故か見えたような気がした。
「だが、今は違う・・・」
銀仮面の両手に、輝かしいまでの炎が集う。
炎に照らされてか、それとも彼自身が光を放っていたのか。
銀仮面が輝いて見えた。
「!!銀仮面・・・!その力は・・・!」
「我が命の力・・・そして・・・、
方陣十仙、壮炎・・・・・・・・!!!」
両の炎が一つとなり、
「見よ、集いし人々よ。これが帝都の声なき叫び・・・」
爆発的に膨れ上がる炎を誰も、春日でさえ止められない。
銀仮面を祭壇のようにして、星まで届くかと思わせるほどの巨大な紫炎の火柱が上がる・・・!
「これが、呪われし帝都の力だ!!!!」
二度、宮城が激震した。
「うわあっっ!!」
膨れ上がった銀仮面の反応が電影板を埋め尽くしたかと思った直後、小型霊子力レーダーが耐えきれずに吹っ飛んだ。
「こ、こんなやつと、アタイたちは今まで戦ってきたのか・・・!?」
マリアやカンナでさえ、驚きを隠せない。
黄昏の三騎士を全員合わせてもここまでかどうか・・・。
「どうしたの!?アイリス・・・」
アイリスが小さくなって震えている。
ジャンポールが無表情のままアイリスを支えているかのようだった。
「さくらぁ・・・、ほのおが・・・さけんでるよ」
「炎が・・・?」
言われてみれば、燃え上がる火柱の轟々たる音に混じって、何か聞こえたような・・・。
人の嘆き、叫び、悲鳴、慟哭・・・それらが、炎を見た人々全ての耳に、幾重にもこだましていた。
「むっっ・・・!」
塚本もそれを感じていたが、彼の精神はそれに浸ることを許さなかった。
彼が考えたのは、銀仮面が今いる場所までかなりの距離があると言うことだった。
このまま炎の上がった場所に向かっても、すれ違いになる可能性がある。
それは絶対に避けねばならない。
「どうする・・・」
自問してみるが答えは出ない。
ここまで、ことごとく待ちかまえてきたので、こういう状況は初めてであった。
初めて入る宮城は、地形もよくわからない。
一応の道はわかるが、遠くへ行くとなると思いっきり不安である。
「ん?」
何か良い手がかりはないかと視線を巡らせていると、目にとまったものがある。
こんなところには場違いのような少女が1、2、・・・6人。
宮城の関係者だろうか・・・
いや、あの六人は、帝劇花組のスタアたちではないか・・・!?
これでもマリアのファンで、劇場に行ったこともある塚本には遠目からもよくわかった。
間違いない。
しかしどういうことだ。
二週間くらい前にも一度、銀仮面の予告現場で神崎すみれ嬢を見たことがあったが・・・。
頭の中で、二三度パズルを組み直す。
「そういうことか・・・!」
やることは決まった。
彼女らに行き着く道の前で待っていれば、銀仮面は必ず来る・・・!!
扉だけでなく、壁もいくらかすっ飛んだ宝物殿に、足を踏み入れた。
銀仮面が知らない物ばかりだが、きっとどれも由緒ある品ばかりなのだろう。
少しやり過ぎたかと反省する。
その中でも、ひときわ強い力を放っている物に注目した。
鐸・・・矛・・・まあそれらは無視する。
鏡は・・・、いくつか箱を開けた内の一つにあった。
京極に教えられた外見と一致する。
これが黄泉鏡に間違いあるまい。
何故京極がそんなことを知っているのかはわからなかったが、奴は古くからの陰陽士の家系だという。
もしかしたら、かつては京極家が所有していた物なのかも知れない。
「まあ・・・よい・・・」
これで、礼は果たせる。
盟約が、終わる。
シルクハットを取り、その中に入れようとする。
「まて・・・」
壮炎を直撃に近い距離で受けた春日が、それでもここまではい上がってきていた。
「わたせぬ・・・、それを人の世に出しては・・・大和に続いて武蔵までもが・・・」
「よせ。貴君でもその傷では休まねば後に残すぞ」
「断じて・・・・」
ボウッ
「く・・・」
シルクハットから吹き出した眠り薬に満身創痍の春日は抗しきれなかった。
この男なら、休みさえすればそう悪化はすまい。
それよりも、
「尽きたか」
この半年使い続けてきた眠り薬だが、これで使い切ったようだ。
丁度良いと言えば丁度良い。
「では、約束の品だ」
シルクハットの中に鏡を入れると、待ちかねたように魔法陣の向こうで掴んだ手があった。
「盟約は、果たした」
そう言って、シルクハットから手を抜いてかぶり直した。
「さあ、ファイナルステージへ・・・」
楽屋に戻る。