山崎真之介が何故葵叉丹となったのかは、サクラ大戦最大の謎と言って良いでしょう。
今まで公式には一度たりとも語られたことのないこの謎が、ついにテレビアニメ版サクラ大戦で語られようとしています。
無論、賛否両論余りに激しいテレビアニメ版を正統と解釈することには相当の無理がありますが、
それでも今までで最も真実に近いことが明らかにされると期待できます。
テレビアニメ版でここまで明かされた真実を見てみましょう。
なお、壮絶なネタバレを含みます。
週遅れで放送を見ていらっしゃる方、ビデオ版で見ようと言う方はご注意下さい。
第六話「光武の心」より
紅蘭は光武に戸惑うさくらに対して、霊子甲冑光武の設計書を見せ、その人間工学性に満ちた設計がどれほど素晴らしいか語って見せます。
ゲーム版と異なるのは、紅蘭が設計者たる山崎真之介の名前を知っていることです。
設計の素晴らしさから、紅蘭は真之介を先生と呼び、一度でいいから会ってみたいといいます。
ただし、行方不明であるということだけは聞き及んでいるようでした。
第十四話「アイリス出撃す」より
黒之巣会の脇侍生産等に関する重要拠点への突入作戦において、カメラに映し出された葵叉丹の顔を見てあやめは即座に表情を変えました。
この時点で、髪飾りなどがあるにせよあやめは彼を山崎真之介であると認識できたわけです。
よってあやめは特に彼について記憶を封じられているとかいうことはありません。
また、わき目もふらずに任務を放棄してまで飛び出していったことから、いかに彼女が真之介との再会を待ちわびていたかが伺い知れます。
このことから、降魔戦争の終結当時にあやめは真之介の変貌を知らずに、いつの間にか生き別れてしまったのではないかと考えられます。
ようやく出会えた真之介に「どうして」と尋ねるあたりからも同じことが考えられます。
一方、あやめに出会えたときの真之介は驚きつつも「あやめか……」とつぶやきます。
このことから、叉丹の方も当時の記憶をしっかりと残していることが言えます。
さらに、無謀にも現れたさくらが抜いた霊剣荒鷹を見て、さくらが一馬の娘であることを即座に見抜きます。
さくらの動きを未熟と断じた上で、脇差しを収めておそらくは光刀無形を抜き放ちます。
この理由は想像するしかありませんが、彼は一馬の剣に対して生半可な行動をとることが許せなかったのではないでしょうか。
一馬と同じ様に北辰一刀流を操り、霊剣荒鷹を構えていたからこそ、彼にはさくらの未熟さが嫌と言うほどわかったはずです。
そして、その動きはさくらを圧倒し、同等の二剣二刀の一振りである荒鷹の刃を削ぎ落とします。
さくらはこれで完全に戦意を喪失してしまい、叉丹はさくらに剣を突きつけます。
今まさに止めを、という瞬間、あやめがさくらをかばって飛び込みました。
あやめには自信があったのかも知れません。
自分が飛び込めば、その剣が止まると。
ですが、光刀無形は見事にあやめの身体を傷つけました。
傷つき倒れたあやめにすがり泣くさくらの背中は隙だらけでしたが、叉丹は何故かここで剣を収めました。
容易に二人とも殺すことが出来たはずなのに、です。
それは、やはり出来なかったのでしょうか。
ひとまず、あやめは一命を取り留めますが、叉丹は逃亡と言う形でこの回は終わりました。
逃亡と言うにはあまりに悠然とした態度で本拠地を後にする叉丹を、米田も確認します。
彼にも、それが誰なのか一目でわかりました。
ですが、その驚きが信じられない、というためのものか、あるいはとうとう来たか、というものなのかはわかりません。
第十五話「さくら故郷へ帰る」より
あやめは真之介に斬りつけられたショックからでしょう、いつもの精彩が全くありません。
上着を肩からかけ、その中で右腕を三角巾で吊っていました。
ですが傷以上に精神的なものが大きいようです。
米田は表面上は平静を装って、いつも通りのらりくらりを演じます。
珍しく光武の格納庫に降りてきたあやめは、整備している紅蘭の前で思わず真之介のことを回想してしまいます。
それをもちろん聞き逃さない紅蘭ですが、あやめは真之介のことは詳しく知らないと言ってその場を逃れます。
どこにいるかわからないかと尋ねる紅蘭に、あやめは先の件を思い出して表情を変えますが、やはり答えません。
相当の迷いを持っていることがうかがえました。
第十六話「対降魔部隊」
まず、霊子甲冑の開発に関する事実が明らかになりました。
作中では降魔とほぼ互角の戦いを繰り広げているように見える対降魔部隊ですが、
やはり生身での戦いはあまりにも大きな負担となっているのでしょう。
霊子甲冑が実現すれば降魔との力関係は逆転するという見方をしている真之介は、
どこか力を求めているようにも見えますが、それでもこの当時はまだ正気です。
しかしその霊子甲冑は予算の都合という名目で製造認可が下りませんでした。
これが本当に予算問題だけで決定されたのか、それとも対降魔部隊に対する警戒感から決定されたのかは作中では明らかになっていませんが、
真之介は軍の上層部を見返してやろうとばかり、霊子甲冑設計書にさらなる改造を加えようとします。
その目は、あやめが危惧するほどにどこか狂気を帯びていました。
後に李紅蘭に「人間が大好きやったんやろうなあ」と言わしめた霊子甲冑光武の設計書は、
おそらくこういった手が入る前の版ではないかと考えられます。
その場合には、真之介が光武を指して「旧時代」と言った理由も納得がいくのです。
真之介とあやめの関係は、戦場では真之介があやめを守り、日常ではあやめが真之介を支えているといったもののようです。
危機に陥ったあやめを救った真之介は、
「油断するな、いつも俺が後ろにいるわけではない!」
と叫びますが、このときにあやめは安心しきったような笑顔を見せています。
一方で霊子甲冑案が蹴られ、自室でうなだれていた真之介を気遣うあやめに、
「おまえはいつもそんな目で私を見るのだな……」
とつぶやきます。
真之介はまた、降魔実権を中心とする降魔誕生のいきさつをかなり詳しく知っていました。
一方で化け物集団と呼ばれる自分たちを省みて、降魔に同調する気持ちもあったようです。
それが、やがて真之介を変貌させて行っています。
米田によれば、真之介は他の三人と違って、自分が何のために戦っているかという悟りが無かったようです。
傍にあやめがいてさえも。
それが一馬との手合わせでもなりふり構わぬ勝利をもぎ取ろうとする殺気に変わるなど、
米田にとっては懸念の種は尽きなかったようです。
一馬にしてみれば、それは若いころの自分を想わせる態度であったようですが。
巨大降魔を前にしたとき、真之介の霊子甲冑に賭けた思いは絶望感へと変わっています。
そして同時に、巨大降魔のようなとてつもない怨念を抱えた帝都へ、存在価値を疑いはじめます。
降魔と同じように恐れられた自分も省みてしまったのでしょう。
我先にと逃げ出す人に突き飛ばされて地面に転がった真之介の精神は壊れました。
巨大降魔に焦がれるように近づいていき、その巨大降魔の攻撃によって消え去ります。
以前より身につけていた、蛇のような文様のからみついた不思議なペンダントだけを残して。
そのペンダントは太正十二年の今、あやめの手の中にあります。
第十九話「破邪の陣」
叉丹の目的が天封石の解放……ひいては天海の復活にあると解ったわけですが、
その意図する内容までは明らかになりませんでした。
ただし、歴史上の姿には天海とともに降魔が描かれていたため、第十六話で降魔の力を求めた真之介の延長線上そのままに
降魔の復活を企んでいると考えることもできます。
ただ、やはり現時点では情報不足です。
十七話でミロクを復活させて、この十九話では羅刹を復活させた上に刹那の魂をいっしょにしています。
これは手駒として最大限に利用しようとする意図が明かで、ゲーム版とは違って黒之巣会を完全に掌握して意のままにしていることがうかがえます。
また米田と対面したときに「米田……再び真宮寺の血を生贄とするつもりか……」と言っています。
つまり真之介は一馬が魔神器を使ったことを知っていて、それを非難しているようなところがあります。
ただその直後に”面白い”と言っているので、そうと言い切ることも難しいのですが。
さくらと対峙したときにも「この霊力は……真宮寺の娘……」と言っているので、彼が一馬について未だにこだわりを捨てていないことは確かです。
一方で、間近にいたあやめとは顔を合わせることなく退散しています。
あやめの方は真之介が近づいてきていることを気づいているのですが、真之介は気づいているのか気づいていないのか。
ともかく真之介は花組を倒せるだけの実力がありながら全員生かしたままにしておきました。
ここにも何かの打算があるのかもしれません。
第二十話「しのび寄る闇」
なんとこの回の冒頭で真之介は、洋装で珈琲か紅茶をすすりながらシンデレラのパンフレットを眺めています。
ということは、正面から堂々と帝劇に入り込んで公演を鑑賞し、なおかつ椿ちゃんからパンフレットを二つも購入していたことになります。
笑える話かもしれませんが、これはつまるところ花組と観客を一挙に全滅させることなどいとも簡単に出来たのに、
それを実行しなかったということになります。
このことから、真之介=叉丹の目的は帝撃を倒すという短絡的な物ではなく、もっと本質的なものがあると考えられます。
さらにさくらに対しても素顔そのままで接近し、洋行帰りということで実にのんびりと、
しかし確実にさくらの警戒を緩めるために一馬の名前を出して会話に持ち込みます。
このときに、しみじみと「真宮寺大佐は私にとって実の兄のような存在でした」と言っています。
もちろん全てを演技と見ることもできますが、この言葉は妙に実感がこもっていたようにも思えます。
もしかしたらこの言葉だけは本音だったのかも知れません。
それは、ここまでに真之介は真宮寺の血にこだわり、生贄ということに反発しているからです。
いさめられ、たしなめられても、降魔戦争という時代の最中にあって真之介は一馬を敬していたのでしょうか。
またここでさくらに対して本名を名乗ったことから想像されることがあります。
紅蘭に対して「山崎さんに会った」と言おうとしたように、同じく降魔戦争の生き残りである米田とあやめにさくらが報告することは必然であるからです。
もちろん、山崎=叉丹であることに気づいている米田とあやめが彼が接触してきたことを知れば、
さくらを留めて翌日の約束の場所で待ち伏せするなりの対策を講じることでしょう。
これくらいのことが予想できない真之介ではありません。
この後の真之介の動きを考えますと、最初から二人を呼び寄せることが目的であったようです。
しかし、さくらのうっかり具合を甘く見ていたのか、そもそも米田が外出していたためか(この話を通じて米田は登場しません)、
ともかくこれは失敗に終わりました。
そこであらかじめ張っておいた伏線により、父の形見と偽った霊具によりさくらを精神支配する手段を採ります。
このことからも、真之介が極めて高度な計算の上に行動していることがうかがえます。
しかし、後でこれを余興と言っていることから、やはりこの手段はあくまでおまけのつもりだったのでしょう。
第一段階で失敗した真之介は、米田が不在であるため……あるいはそれを最初から見越して、
仕事帰りのあやめの車が通る街角で待っています。
あやめがどこに行っているか、どう帰ってくるかまで全て把握していることになります。
帝撃の全行動はほぼ真之介に筒抜けであると考えて良いでしょう。
そして、たたずんでいるだけであやめが自分に気づくだけの聡さと、自分を追いかけてくることも承知の上です。
心の隙を突くように彼女の背後から姿を現した真之介はあやめに対して、
帝撃を裏切り自分の下へつくように誘惑します。
これが本音だったのかどうかは定かではありません。
しかし真之介は米田に対してはここまで敵意を隠しませんが、あやめに対しては一度重傷を負わせたとき……逆に言えば殺さずに倒したとき以来、
態度をはっきりとさせていませんでした。
今も彼にとってあやめは、特別な存在のままなのかも知れません。
銃口を向けられても、そして自分の心臓に彼女の向けた銃を当てようとも、彼女が決して撃てないことを確信していました。
さくらを操って、やったことはといえばほとんど意味のないことばかりです。
霊子甲冑を全滅させるのならば、もっといい方法がいくらでもあるでしょう。
さくらを操ったことそのものは、ただの演出に過ぎないようです。
そして姿を現して、さくらたちが米田の駒に過ぎないと告げることの方が重要ではないでしょうか。
少なくともこちらは、彼の純然たる意志が現れているようです。
真宮寺の血を生贄にすること、帝都を守ること、それらそのものを彼は真っ向から否定するために動いているように見えます。
しかしそれ以上に、米田に対する敵対心そのものが見え隠れしているようにも見えます。
さくらの上達をある程度は認め、それでもなお圧倒的な実力差を示し、そして今回も止めを刺すことなく撤退しました。
どこか、さくらたちの上達を期待しているようにも思えます。
第二十一話「もう一つの戦い」
未だ廃墟のままである降魔戦争終焉の地に米田が現れ、それを全て解っていたかのように真之介も姿を現します。
その前に米田が賢人機関に召喚されたのもおそらく承知の上で、米田が自ら出てくることを予見していたのでしょう。
まさか数日前からずっとそこを張っていた……可能性もありますが。
そして、米田に対しては真之介ははっきりとした殺意をむき出しにして攻撃を仕掛けました。
いままでさくらたちと戦っていたのは何だったのだろうかと思うほどの戦いぶりです。
帝都を守るということに対する反発よりも、米田一基という人間を乗り越えようとしているようですらあります。
対降魔部隊長、米田一基。
その名に恥じぬ剣の冴えは、交える真之介の表情から一切の余裕を奪っていました。
もしかしたら真之介は、親のようですらあった米田に勝つことで己というものを確認しようとしているのかもしれません。
その想像が正しいかどうかはともかく、真之介は米田を徐々に押していきます。
逃げまどう米田……しかしそれは三つの魔神器で正三角形を描き、己の命と引き替えに真之介を封じ込めようとする
陸軍きっての戦略家の策でした。
もしや神刀滅却ではないかと思われる米田の刀をすら折り、勝利を確信した瞬間に繰り出された魔神器が一つ、剣。
一馬の命を奪った魔神器、そして米田の命を賭けた策。
それを乗り越えようとする真之介の叫びは、かつて無い悲壮感と強固な意志に満ちていました。
天を割く黒い光。
米田を打ち倒し……それは同時に、米田が魔神器に命を吸い取られることを阻止したと見ることもできるのかも知れませんが、
その瞬間に響く銃声と感じた違和感。
あのあやめが、自分に向けて撃ったということを知ったときの真之介の表情は、米田と戦っていたときの戦意などなく、
絶望にも似たものを漂わせていました。
信じられないという形相の真之介に向かって、涙を堪えることも出来ずにさらに撃つあやめに対して
「おまえが私を撃ったのか……!」
真之介は信じていたのでしょう。
あやめだけは、絶対に自分の敵とはならないでくれることを。
自業自得とはいえ、裏切られたと思った真之介はあやめに対して妖力を限りに振り絞った一撃を繰り出します。
間違いなく、殺す気だったでしょう。
すんでの所で大神があやめをさらってかばい、難を逃れますが、あやめにしてもそれを避ける気があったのでしょうか。
真之介は、あやめの生死を確認もせずにその場を立ち去ります。
花組に対してならば幾度も見せた余裕の笑いを浮かべることもせずに……できずに。
そして、米田の姿もその場からなくなりました。
第二十二話「帝劇、炎上!」