STC Valves (Part 1)

 

Left to right STC 4101D, STC(Australia) SY4101D, STC 4205E

STC 4101D  左からSTC 4101D、STCオーストラリアのSY4101D、STC 4205E です。
 STC社(Standard Telephones and Cables Ltd.)の詳細に関しては、改めて Box Gallery のコーナーで紹介できると思いますが、英国における公共通信部門とそれに関連する真空管製造をほぼ独占していた企業です。(重要な会社ですので、もしご存じ無ければこれを機会に是非覚えて下さい)
 そのSTC の初期の真空管の代表が 4101D です。 STC では、1920年代半ば頃から製造し始めたようです。 勿論、WEの101D と全く同一の球です。 ただ、型番に関してSTC では頭に4を加え4101D (他の真空管も同様)と銘々されています。
 写真の4101D は、偶然ですが大塚氏が”無線と実験”の今月号(1998年12月号)にSTR の4101D として紹介されている物と全く同一のようです。 確かにスウェーデンの特許と思われる表記も見られます。 ただ、この4101D は、明らかに英国STC の製造で、スウェーデンの系列会社(STC Sweden)に供給した物ですから、当ギャラリーでは 本家英国STC 4101D として紹介します。
 メタルベースを使用していることから、1920年代後半から1930年代初め頃の製品と分かります。 なお、スウェーデンでもSTC 系列のStandard社(A.B.Standard Radiofabrik)が1930年代末からSTC 系の真空管製造を始めたようですが、4101D を実際に製造したかは確認できていません。 仮に存在したとすると時代的に写真の2ないし3番目のような黒のモールドベースの物で、名称は S-4101D と言うことになります。
 4101D も、細部を除いて内部構造はWEの101D と同一です。 ただ、STC のメタルベースには、WEのような金属の継ぎ目の無いいわゆるシームレスタイプを使用しています。 この辺は、欧州の製造技術が上手を行っていたようです。
 中央は、STC でもSTCオーストラリア(Standard Telephones and Cables Pty Ltd.)の SY4101D です(MADE IN AUSTRALIA の刻印有り)。 STCオーストラリアも1930年代末からSTC 系の真空管製造を始めています。 つまり比較的新しい製品と言うことになりますが、すぐにST管の時代になりましたので、旧丸球の製造数はあまり多くなかったようです。
 内部は、STC と全く同じように造られていますが、STC と比較すると全体的に造りが少し甘いような気がしなくも有りません。
 なお、型番のSY は、同社が本拠地を置いていた都市 Sydney から来ています。 同社は、オーストラリアの他ニュージーランドも統括していました。
 最後は、STC 4205E です。 写真の4205E は、モールドベースのもので、1930年代後半の製品のようです。 ベースには社名、型番の他特許番号が刻印されて有ります(SY4101D も同様)。 米国では、この時代ごく普通に刻印ベースを使用していましたが、欧州メーカーでは何故かベースに刻印で表示する習慣はほとんど有りませんでした。 STC でも一時期のみ採用しただけで、欧州管としては例外中の例外と言えます。
 写真の4205E には、トップシール部分に金属製のキャップがはめられています。 この部分が破損しやすいため防護の目的で、製造時に取り付けられたようです。
 なお、STC でも4205E の旧タイプである4205D も製造していたようですが、STC 発行のバルブマニュアル(1932年版)によると、4101D、4102D、4104Dは、記載されていますが、4205Dは既に無く代わりに4205E が記載されています。 STC では、WEより世代交代が早かったのでしょうか。 (WEでは205D、205Eとも、205Fが登場する1942年頃まで製造されていたようです。)



 

Left to right STC 3A/141A, STC 3B/151A, STC 4275A

STC 3A/141A  左からSTC 3A/141A、STC 3B/151A、STC 4275A です。
 STC でも1930年代末以降、順次旧丸球からSTタイプへと転換が図られました。
 STC 3A/141A は、4101D の後継品です。 写真の球は、比較的新しく1960年頃の製品のようです。
 内部は、カーボン処理の無いニッケルプレートで、WE 101D と比較するとプレートが若干短めです。 フィラメントは、同じく3本吊りですが、3A/141A の方が少し幅広の物となっています。
 また、STC のSTタイプ真空管共通の特色ですが、吊り金具は、WEが300A に採用した理想的と思える構造を最後(1970年代)まで採用(一部例外有り)している点です(WEでは300B 以降簡略化したタイプに変更)。 この3A/141A も例外ではありません。
 3B/151A も、4205E の後継品で、WEでは205F に相当する真空管です。
 この3B/151A は構造的に、STC のST管の中でも一寸異色の存在のように思えます。 まず、プレートの軸がガラスステムから45度程ずれています(通常は勿論平行)。 また、リボン状のフィラメントがWE 211D等と同様プレートと平行に取り付けられて有ります。
 その他プレート下部にマイカ板を追加、プレートからのリードは、ステム下部から直接取り出して有る等々、WE 205F を凌ぐ仕上がりとなっています。
 最後は、WE 275A のSTC版である4275A です。 各電極構造は、WEとほとんど同じですが、プレート表面のカーボン処理方法が異なるようで、半艶消しの独特の色合いをしています。 また、グリッドサポート金具両先端にはWEには無い放熱板が追加されて有ります。
 ガラスグローブは、WEと比較して少し大きめ(直径、高さとも)で、ガラス自体肉厚の物を使用しているため重量感が有ります。
 この様なSTCとWEの微妙な差違は、旧丸球時代よりもST管の時代の方が目立つように感じます。 この事の原因については、当時の米国と英国の人口や経済面に起因する市場規模の違いから来ているように思います。 つまり、これら業務用真空管の生産数は、WEが圧倒的に多く、急速な需要増大に伴い同社としても基本性能は確保しつつ、量産性も視野に入れざるを得なかったと思われます。 一方STCは、英国の通信部門を独占していたとは言え生産数は、WEより1桁(あるいは2桁以上)少なく余裕を持って生産できたと考えられます。
         


 

STC 4300A of the 1930 - 1970s and 4300B

STC 4300ASTC 4300B

 有名なWEの300A(300B の原型)は、当然STCでも造られています。 その生産は、WE300A と同じ1933年に始まりました。 型番は、STC 4300A で、ここではその幾つかを紹介します。 (大きさの比較が出来るよう撮影位置を同じにして有ります)
 なお、STCでは、WEのように途中で名称変更していませんので、最後まで 4300Aとしていました。
 一番左の4300A は、その最初期の製品です。 WE300A と比較すると、プレートの大きさや各電極の構造は同じですが、何点か異なる点が有ります。 先ずガラスグローブ形状が通常のWE300A より大型(上部のドーム部分の直径が太く全体も少し高い)です。 プレート表面は、カーボン処理の方法が異なるのか、4275A 同様半艶消しの物で、リブの数は7本(WE は5本)となっています。
 また、STC では前述のようにベースに型番等を刻印する事はなく、ガラス表面に銀または赤色で記入されているだけです。 お馴染みのSTC のロゴマークもまだ出来ていなかったのか入っていません。
 細部では、フィラメントの点火方法が異なります。 4300A ではシリーズ(直列)で点火するようになっています(最後まで同じ)が、WE 300A/B では、初期のもの(やはりシリーズ点火)を除きパラレル点火となっています。 お持ち方は、一度確認してみて下さい。
 2番目の4300A は、1940年代に入ってからの製品(おそらく第二次大戦中)と思われます。 内部は、最初期の球とあまり変わっていませんが、ガラスグローブ形状は、WEにかなり近くなっています。 ただ、同時代のWE300B よりまだ大型です。
 3番目の4300A は、1950年頃の製品と思われます。 プレート表面もWEのような艶消しのカーボン処理に変わっています。 グローブは、写真のようにWE300B より背の低いタイプになっていますが(WEと同じサイズの物も有り)、直径は同じです。 ただ、肉厚のガラスを使用しているのか、同時代のWE300B より重量があります。 このサイズの方が、STC4300A としては日本でお馴染みの物かもしれません。
 写真の球は、何故か理由は分かりませんが、プレート支持用のマイカ板がWEと同じような仕様になっています。 ただ2枚で支持している点は、WEと異なります(WEは3枚)。 通常は、他の4300A のようにプレート側面でエ字型のマイカ板2枚で支持するのが、STC 流の方法です。

 4番目は、1960年頃のものです。 プレートの仕様が少し変更になっています。 カーボン処理の無いニッケルプレートの上からジルコニウム(?)を塗布するタイプで、手作業のためか薬剤の塗布量に個体差が見られます(中にはほとんど無い物もあり)。 ベースも絶縁性のより高いマイカノール(茶ベース)に変更されています。 また、グローブサイズもWEと全く同サイズになりましたが、3番目のように背の低い形状のものが一般的なようです。
   5番目は、STC 4300A の最終バージョンで、1970年前後の物です。 プレートは、1950年代と60年代の物をブレンドしたような感じになっています。 つまり、カーボン処理(艶消し)の上にジルコニウムを塗布して有ります。 グローブは、やや細身のタイプを採用しています。
 なお、STC では、1972年頃に4300A の生産を終了しました。
 最後は、4300B です。 この真空管は、STCが4300A の生産を終了した後、日本の有る商社がSTCにスポットでそのレプリカの生産を依頼し誕生した(現在生産されているWE300B のレプリカと同じケース)ものです。 この為、オリジナルと区別するために名称を4300B と改称して有ります(現在のWE300B も300C と改称すべき?)。 1973年頃から数年間生産されたようです。
 因みに、この4300B は、ほぼ全量日本に納入されましたので、海外でSTC 4300B と言っても全く通用しません。 日本だけで通用するローカルネームです。
 内容的には、STC 4300A の最終バージョンを再現したものです。 写真の4300B のベースに有るガイドピン位置は、誤って取り付けられて有りますが、この辺はご愛敬と言ったところでしょうか。
 


 

Left to right STC 4211D, STC 4211E

STC 4211D  左からSTC 4211D、STC 4211E です。
 WE が211A のニューバージョンである211D を発表したのは、1924年頃ですが、STC でも同じく4211D の生産を始めています。 4211D、211D ともSTC およびWE の代表的中型(或いは小型?)送信管と言えます。 勿論、オーディオ専用出力管のない時代でしたから、シアターアンプなどオーディオ用にも盛んに使われていました。
 英国にも元々、WEのプロ用音響関係の部門がありましたので、この4211D のパラレルプッシュプルアンプが劇場用などに活躍していました。
 STC 4211D もWE 211D と電気的特性は勿論、外観もほとんど同じです。 写真では分かりにくいですが、プレートは何とも表現出来ない不思議な色合いと光沢を持っています。
 WE 211D との相違点をあえて挙げますと、写真でも確認できると思いますが、プレートを支持する大型の支柱が、鋼材に例えるとSTCは溝型鋼(U字型)で、WEが山型鋼(V字型)形状をしています。 また、STC 4101D でも説明しましたが、STCは継ぎ目のないシームレスメタルベース(WEは継ぎ目有り)で、その底面にはセラミック板(WEはベーク板)を採用しています。
 なお、STC 4211D, WE211D とも後期の製品は、右のような黒のモールドベースに変わっています。
 右は、4211D の改良型 STC 4211E です。 ベースは、モールドのタイプですが、初期のものは4211D 同様メタルベースを採用しています(WE 211E も同様です)。
 各電極の材質、構造は、4211D と同じですが、プレートとグリッドの各リード線の途中にチョークコイルを追加して有ります。 これは、高周波帯での特性改善を意識した改良ですが、オーディオ出力用としても、4211D と同等以上に使用することが出来ます。
 4211E でも、やはりWEのようにベースに刻印で表示する事は有りませんでした。 ガラス表面に社名、型番、英国における特許番号が、エナメル系の塗料で記入されています。
 最後になりましたが、4211D/E (WE211D/Eも同様)のフィラメントは、RCA 系の211がトリタンフィラメントであるのに対し、オキサイドコートタイプを使用しています。 リボン状のフィラメント面が、プレートの軸と平行になるよう取り付けられています(ちょっと珍しい例です)。


 現在では、WEの真空管は段々入手困難になって来ましたが、絶対数の少ないSTCの物は、更に困難な状況となりました。 特に戦前の真空管に関しては、こちらでも入手を断念せざるを得ない球が少なくありません。
 Part 2 では、今回紹介できませんでした4211系 の後継品 4242系も含め、STC独自規格の物や、その他のSTCグループの真空管を紹介できると思います。


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg(V)	Ia(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	u	Ra(ohm)	Po(W)	Pa(W)
4101D	4.4	0.97	130	-9	8	6000		5.9		0.059	2.5
4205E	4.5	1.6	350max	-15to30	45max	3500		7		0.89	15
3A/141A	4.5	1.0	130	-12	5	7000	0.85	5.9	7000	0.095	2
3B/151A	4.5	1.6	350	-18	35	3900	1.9	7.3			15
4275A	=WE 275A
4300A	=WE 300A/B
4211D	10	3	750	-30	65	3000		12		4.6	65
4211E	=4211D

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