RAYTHEON 4-pillar tubes(Part1)

 

Left to right ER227、ER56、ER231   

ER-227  左からER227, ER56, ER231 です。
 RAYTHEONは、独立系の会社として初めて(1929年)RCA(この頃RCA はまだ自社生産していません)から受信管のライセンスを取得しています。 それを契機に受信管の生産を始めましたが、他のメーカーとはちょっと趣の異なる真空管でした。
 それが、今回紹介する4-pillar tube です。
 227 は、名前のとおり(偶然ですが)1927年にRCA から発表されました。 実質上米国初の傍熱タイプ3極増幅管です。
 RAYTHEON ER227 は、上記のように1929年に登場しています。 なお、型番のER は、その頃のブランド名 EVEREADY RAYTHEON から来ています(この辺に関しましてはBOX GALLERY でご紹介出来ると思います)。
 ER227 も他社の227 同様メッシュプレートとなっています。 もちろん4-pillar 構造ですが、この様な小型管の場合、直接プレートを支持しているのは内2本のみで、残り2本は、補助的なものです。 ただ4本のピラーを固定するためガラスステム上部が十字形になっていて 4-pillar 管の大きな特徴となっています。
 次のER56 も内部の構造は、ER227 と同様ですが、プレートは 227 より若干大きく、ガラス外形は一回り小型です。 なお、この56 から6.3V管に進化したのが76 です。
 ER231 は、かなり小型の真空管ですが、こう見えても一応3極出力管です(出力は71A の半分程度)。
 バッテリー点火時代の球で、ベースは台形の旧型タイプです。 小さいながらも大変丁寧に造られていて、なかなか捨てがたい魅力を持った真空管です。 もちろん4-pillar 構造です。
    


 

Left to right ER112A、12A、ER171A

ER-112A  左からER112A, 12A, ER171A です。
 112A は、1927年に登場した真空管で、171A 同様50や45が登場する以前の主力出力管でした。
 RAYTHEONの4-pillar管のうちER112A クラス以上は、通常のメーカー品と異なり写真のような箱形のプレート(通称アンドンプレート)を採用しています。 
 また、ERの時代(1929から1933年)その多くは、プレート成型時にはその表面にRAYTHEON とロゴを入れていました(プレート表面の剛性を高める目的も有ったと考えられます)。
 プレートは、他社の112A 同様炭化処理をしていないニッケルのままで、光沢のある綺麗な真空管です。
 次の12A は、ST管時代のもので、会社名がRAYTHEON に戻った後ですので、型番からER 取れ、プレート表面もロゴ入りから通常のリブ入りに代わっています。
 ただ、4-pillar 構造とアンドンプレートはそのまま継承しています。
 ER171Aも外観は、ER112A と同様(他社も同じ)で、使用しているパーツは共通です。 ER-171A の方が、フィラメント(M字型 2本吊り)が若干太めで、グリッドピッチが粗めとなっています。
 ここで紹介していますER112A、171A も227 同様4本のピラーの内、プレートを直接支持しているのは2本のみで、残りは補助的な構造となっています。
   


 

Left to right 10、10(ST)、CRP-38110A(US NAVY)

10  左から10、10ST、CRP-38110A です。
 4-pillar シリーズも前出の小型管と比較してこのクラス以上の受信管、送信管とも内部構造が大きく異なります。
 ガラスステム上部の両端が各々二股に分かれます(写真では見にくいかもしれません)。 その各部分(つまり4カ所)からピラーを立ち上げ、この4本のピラーでプレートを支持する構造を取っています。 この構造は、各電極をより強固に支持するためで、当然耐震性が高まります。
 左の10は、1933年以降のもので、ST管に改良される直前のタイプです。 プレートは、4枚の板で構成された典型的なアンドンプレートで RAYTHEON 4-pillar 管の最大の特徴と言えます。
 また、プレート上下にセラミック板が取り付けられていて、グリッドとフィラメントを支持するように工夫されて有ります。 フィラメントは、他社の10と異なりオキサイドコートタイプを採用しています。
 中央の10STもナス管時代の電極構造をそのまま継承していますが、上部のセラミック板とプレートの間にマイカ板を追加し、管壁に密着させることで更に耐震性を高めて有ります(ST管の一般的特徴です)。
 フィラメントの素材は、ナス管時代と同様ですが、何故かかなり幅広の物に変更されており(規格は同じです)、WEの整流管274Aなどに非常に似たものとなっています。
 38110A は、10の米国海軍向け専用スペシャル管です。 ベース部分は、211のそれを小型化したような感じで、ベース底面はセラミック板で本体はアルミ製となっています。 この事から、小型の送信用に使用された物のようです。
 なお、CRP とは、海軍向けに納品する際のRAYTHEON社(Raytheon Production Co.)のコードネームです。 また、型番の38110A も海軍向け独特の呼称で、38で始まる5桁の数字が受信管や送信管など固有の真空管に割り当てられていました。 この38000シリーズには何パターンか有りますが、例えば、RCA が増幅管の76を海軍に納入するとCRC-38076と付けられました。
    


 

Three versions of the VT25

VT25  左からVT25 旧型とVT25 2種です。
 左のVT25 旧型は、数有るVT25(10 の軍用管)の中でも最初期(1930年前後)の真空管です。 プレートは、社名ロゴ入りの旧タイプの物です。
 ベースは、上の38110A と同じ底面がセラミック板のアルミベースでVT25 と刻印されて有ります。
 次のVT25 ST管は、基本的に38110A と同じ仕様の球のようです。 どちらかというと米国陸軍向けの球と言うところです。
 右のVT25 は、今回紹介している4-pillar 管の中ではちょっと変わった球と言えるかもしれません。
 通常のこのクラスの4-pillar 管は、縦長のアンドンプレートですが、このVT25 は、横長のプレートでグリッド幅も広くなっています。 また、他の球同様4枚の板でプレートが構成されていますが、側面部がアーチ状に丸くなっています(他の球は全て平面)。
 ベースは、全てセラミック製の白ベースとなっています。
 この3種のVT25 も 4-pillar 管の特徴(ステム部分でプレートからのリード線とグリッドのリード線間の距離が稼げ、帯域をより広く取れます)と高絶縁仕様を生かして、送信管として使用されていたようです。
 


 

Left to right ER245、45、VT52   

ER-245  左からER245、45 ST、VT52 です。
 写真のER245 は、ロゴ入りプレートで1930年前後の製品です。
 他社の245 と比較して一見プレートが小さく見えるかもしれませんが、これは箱形をしているためで、表面積でいくと他の245 と変わりません。
 プレート上部には、間隔材を兼ねたマイカ板が他社に先駆けて採用して有ります。 また、ガラスステムは、小型管と同じ十字形のものです。
 45 ST も内部の電極構造は、旧型とほぼ同じですが、プレート表面は、通常のリブ付きに変わっています。
 なお、RAYTHEON では、この後4-pillar 構造はそのままで、プレートのみ他社と同じ(プレートが2枚の板で構成)という折衷タイプ(1930年代後半)を経て次第に4-pillar 管から他社と同様の真空管に移行していきました。
 その理由は、この時期各社とも旧ナス管から新型のST管に置き換わった時期で、(プレート上部のマイカ板でプレート全体を支持できる)ST管では、4-pillar 構造の優位性が薄れ、コストも高くついた為と思われます。
 次は 45 Special とも呼ばれるVT52 で、45 から派生した軍専用管です。 RAYTHEON がVT52 を造っていたのをご存じ無い方もおられるかもしれませんが、有名なWE のVT52 よりこちらの方が先に登場していたようです。
 ここからは想像ですが、WE がVT52 を軍に出し始めたのは、1939年からで、RAYTHEON が4-pillar 管の生産を止めた頃と大体重なります。 つまりRAYTHEON が4-pillar のVT52 の生産を中止したためWE に新たに発注したのか、軍がWE に切り替えたのかどちらかと思います。 少なくとも通常タイプのRAYTHEON 製VT52 は見かけたことが有りません。
 内部の構造やパーツは、基本的にVT25(10)と同様ですが、細部に若干手が加えて有ります。
 


 

Left to right 38142(VT52), 2A3H, 2A3

2A3H  左から、38142(VT52)、2A3H、2A3 です。
 38142 も米国海軍用の38000シリーズの球で、VT52 です。 上のVT52 の旧ナス管タイプで、プレートはロゴ入りとなっています。 その特徴から1930年頃の製品と思われます。
 つまり、WE のVT52 より約10年前からVT52 が存在していた事になります。
 内部は、やはりVT25 などと共通ですが、何故かプレートがやや大きく見えます。
 中央は、2A3 の傍熱タイプとして知られる2A3H です。 この球については、2A3 系で既に登場していますので、説明は省略しますが、4-pillar タイプの2A3H です。
 なお、こちらの2A3H には、2A3 系で紹介したような半円筒形の放熱板は付いていません。
 2A3H は、フィラメント周りの構造が大変繊細で量産向きでないことも有って余り普及はせず、製造期間も短かったようです。
 2A3H に変わって登場したのが、最後の2A3 です。
 この2A3 も4-pillar 構造で、4本のピラーの2本づつで2枚の箱形プレートを支持するようになっています。
 かなり大型の箱形プレートが管内いっぱいに2つも収まっていて、何となく得をしたような気分にさせてくれる面白い真空管です。

 1929年から10年近くの間、RAYTHEON 社がこだわり続けた4-pillar シリーズですが、量産性をまだそれほど追求しなかった時代だから出来たある種理想的な構造で有り、機能美さえ感じさせる真空管群と言えます。
 Part 2 では、大型の真空管やその他のタイプを紹介できると思います。
    


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg(V)	Ia(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	u	Ra(ohm)	Po(W)	Pa(W)	 
227	2.5	1.75	250	-21	5.2	9.25k	0.975	9			
56	2.5	1.0	250	-13.5	5.0	9.5k	1.45	13.8	
231	2.0	0.13	180	-30	12.3	3.6k	1.05	3.8	5.7k	0.375
112A	5.0	0.25	180	-13.5	7.7	4.7K	1.8	8.5	10.65K	0.285
171A	5.0	0.25	180	-40.5	20.0	1.75K	1.7	3.0	4.8K	0.79

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