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last update 04 January 2000

■「動物の権利」を研究対象とした理由


直接的なきっかけは、修士一年の時に、“THE ANIMAL RIGHTS MOVEMENTS IN AMERICA:FROM COMPASSION TO RESPECT
*1を手に取ったことです。それまではまったく「動物の権利」に関心はありませんでした。本著『アメリカにおける動物の権利運動:憐れみから尊重へ』は、動物の権利運動(Animal Rights Movement)の歴史的・哲学的情況の概観を、活動家による組織の形成という歴史とも併せて記しています。

著者は動物の権利を擁護する立場にあります。著者は運動の性質についての変化に着目します。19世紀においては、あまりにも大規模に動物に苦痛を与えたために生まれた社会的な力であったものが、1970年代頃の運動では、慈善というよりもむしろ、正義・平等・公正・正当さを求める運動に変化していると主張します。もっとも、現在の動物の権利運動の歴史的淵源については、19世紀における動物実験反対運動であるのか、1975年に出版されたPeter Singer,"ANIMAL LIBERATION"*2であるのか、という議論もあります。本著は上記の視点から運動の問題点、差異、これからの方途を探っていくものです。

本著の内容はもとより、その存在そのものにかなり心を動かされたことは否めません。(本著の詳細についてはまた別項目でuploadする予定です)。「動物の権利」や「動物の解放」を擁護する立場から主題を扱った書物は数多くあります。私自身にとっては、「運動」の立場から主題を扱った本著によっての方が問題の本質がよりつかみやすかったのだと思います。

問題の本質は何か、を語る前に、上記のような直接的なきっかけを得る基になったと思われる個人的な体験を述べたいと思います。いくつかの体験の中で最も大きなものは、猫ではなく鶏です。

毎日通学する山合いに、ある新興宗教団体が祈祷所のようなものを立てました。道路のすぐ近くに面したところには、犬と鶏を本当に小さな小屋に閉じこめて。ある時、突然に宗教団体は祈祷所を引き上げてしまい、犬は連れて行かれました。ところが、鶏は小屋に入れられたままだったのです。

毎日毎日、前を通る度に衰弱していく鶏を車の中から見ていました。幼い頃から動物が身の回りにいる生活をずっと続けているのですが、ひよこの時から育てた二羽の鶏とも暮らしたこともありました(鶏冠が生えるまで一緒にベッドで寝ていたりしたものです)。鶏に眼がいくものの当時の私には車から降ろして貰い、餌をあげるなり連れ出すなりの行動ができなかったのです。どのくらいの期間がたったのでしょうか、かなり長い期間だったような記憶があるのですが、鶏冠が真っ白になって、鶏は息絶えてしまいました。その後、すぐに鶏の死体は連れていかれました。

親近感を抱いていた動物を助けるのに躊躇した理由の中に、宗教団体が飼っていた動物であったこともあります。勝手に連れて帰っていいのだろうか、何か手を加えたら人の物なのにいいのだろうか、という心の迷いがありました。しかし、例えそのような団体の敷地であろうと、置き去りにされてしまっているものを助けないのにはもっと大きな理由があったのだと思います。それはやはり「人間ではない」から、だったのでしょう。

その鶏との接点は私が高校生の頃でした。このことは私の心の中で長く残り、本当に申し訳なく思っている出来事です。その後は、後悔しないように「できることをする」という行動をとるようになりました。しかし、自分自身の行動が変わっても変わらない<何か>があること、問題が解決されたわけではないことに気がつきました。

鶏は「人間でない」ことは確かにしても、それが助けないことを正当化する理由になるのだろうか--。

この私の疑問が「動物の権利」という議論の中で語られていることに非常に驚くとともに、私自身の中に潜む<何か差別的なもの>を解決したいという欲求が生じたのです。

猫という動物と一緒に長年暮らしていることは「動物の権利」運動に関心を呼ぶ大きなきかっけとはなりませんでした。それは私自身が「一軒家に定住」しているためか、その他の理由があるのか分かりません。ただ、彼ら・彼女らと暮らしていることは、人間以外の動物との感情の交流が可能であること、またそれが如何に私自身の心に影響を及ぼすものであるかということなどを、身をもって毎日体験していることなのです。


*1 Lawrence Finsen & Susan Finsen著。Susan Mills Finsen はカリフォルニア州立大学San Bernardino校・哲学準教授。Lawrence Finsen はRedlands大学・哲学教授。Californians for the Ethical Treatment of Animalsの共同設立者。Twayne Publishers,1994.

*2 Peter Singer,“ANIMAL LIBERATION *NEW REVISED EDITION”,1975,AVON,1990

 


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