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 公開日 :2000年 10月 5日

■オービス3による速度違反取締は、道路交通法の目的および証拠裁判主義に反するものではないとされた事例。
 --自動速度取締機(オービス3)による速度違反の取締は、肖像権、プライバシーの権利を侵害するものでなく、憲法一三条・二一条に違反しない。
  オービス3による速度違反取締は、違反者の防禦権を不当に侵害するものではない。
 制限速度違反罪は、いわゆる抽象的危険犯である。


道路交通法違反事件、大阪地裁昭和59・2・29第11刑事部判決。大阪地裁昭和五五(わ)第三〇二九号、昭和五六(わ)第三二一九号(有罪、弁護人控訴)。

<<参照条文>> 道路交通法22条。憲法13条、14条、21条。刑事訴訟法。


被告人 甲山一郎 ほか一人


主   文

被告人甲山一郎を罰金二万五、〇〇〇円に、同乙川次郎を罰金二万円に処する。

被告人らにおいて右罰金を完納することができないときは、いずれも金二、五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中、証人M、同K、同H1、同Y、同S(昭和五六年一〇月一日、同年一一月一二日、同年一二月一〇日各取調べ分)、同Tに支給した分は被告人甲山一郎の負担とし、証人H2、同S(昭和五七年六月一六日取調べ分)に支給した分は被告人乙川次郎の負担とし、証人庭山英雄に支給した分は被告人両名の連帯負担とする。


理   由

(罪となるべき事実)

第一 被告人甲山一郎は、昭和五四年四月三日午前三時二分ころ、道路標識により、最高速度が四〇キロメートル毎時と指定されていた神戸市東灘区御影本町八丁目〇番〇号付近道路において、その最高速度を三五キロメートルこえる七五キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行し、

第二 被告人乙川次郎は、昭和五五年一〇月二三日午後三時五一分ころ、道路標識により、最高速度が四〇キロメートル毎時と指定されていた芦屋市竹園町〇番〇号付近道路において、その最高速度を三三キロメートルこえる七三キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したものである。


(証拠の標目)

(略)


(法令の適用)

 被告人両名の判示各所為は、いずれも道路交通法一一八条一項二号、二二条一項、四条一項、同法施行令一条の二第一項に該当するが、いずれも所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で、被告人甲山一郎を罰金二万五、〇〇〇円に、同乙川次郎を罰金二万円に処し、被告人らにおいて、その罰金を完納することができないときは、刑法一八条により、いずれも金二、五〇〇円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置することとする。

なお、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用する。


(弁護人の主張に対する判断)

第一 被告人らを検挙したオービス3と称する自動速度取締装置は、測定速度の正確性の保障並びに速度測定の対象車両と写真撮影の対象車両が同一であることの保障がないとの主張について(証拠略)を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、(1) 本件各オービス3の作動原理は、道路表層中に所定の間隔で車両感知ループ(センサー)を埋設し、ループを通過する車両の金属部分に生ずるうず電流による変化をループと結合している車両検出器内で直流電圧に変換して信号が発せられ、パレツト(本機)内のコンピユーターで速度計算を行ない、あらかじめ設定された速度と比較してそれ以上であればカメラとストロボが作動し、違反車両を前方から撮影し、それと同時に車速、日時、場所等のデータが写し込まれるものである。

 被告人甲山が捕捉されたのはオービス3L型であり、同乙川が捕捉されたのはオービス3Lc型であるが、L型とLc型の作動原理は同一であるけれども、L型はスタートループとストツプループの間隔が三・五メートルに設置されているのに対し、Lc型は右の間隔が六・九メートルに設置され、その中間にコントロールループを入れることにより、画角からはみ出す車両については撮影をストツプさせる監視機能をもたせている。また、L型の場合、ループの間隔は三・四五メートルプラスマイナス六ミリメートルで施工されているが、速度計算上は三・三三メートルとして計算するようにセツトされており、測定された速度の誤差がプラス〇マイナス八パーセント以内におさまる構造になつており、Lc型の場合は、ループの間隔がL型の二倍になつている関係で速度測定の正確性が更に高まり、測定された速度の誤差がプラス〇マイナス五パーセント以内におさまる構造になつている。

(2) オービス3の導入に当つては、模型を使用した実験、テストコース及び一般道路における試験等の結果、速度測定装置としての正確性について検討を加え、その精度が高いことが確認されており、本件各オービス3についても、休日を除くほぼ毎日、シユミレーターを用いて計測用信号をコンピユーターに入れ、表示される数値の正確性を確認しているほか、年二回の割合で定期点検を実施して本機の点検、ストロボヘツドの交換を行ない、右定期点検の際、片側の車線について、基準センサーとしてテープスイツチセンサを使用して一般通行車両を対象に総合精度の確認を行つており、判示第一のオービス3L型については昭和五四年三月二〇日から同月二三日にかけて実施された定期点検において正常に作動していることが確認され、また、判示第二のオービス3Lc型については昭和五五年三月一〇日の定期点検をはじめ、その後半年毎になされた定期点検において、いずれも正常に作動していることが確認されている。

(3) 被告人甲山及び同乙川が本件により検挙された際、各オービス3は、いずれもその設置されている中央分離帯に最も近い車線にセツトされ、同車線を走行していた各被告人が捕捉されたものであつて、並進車両が誤つて撮影された疑いは全く存しないのであるが、中央分離帯から二番目、三番目の車線にセツトされている場合において、速度測定の対象車両と並進してより中央分離帯に近い車線を走行する車両が撮影されることが理論上ある得るけれども、セツトされている車線と異なる車線を走行している車線が撮影されている場合には警察官による捜査の過程でチエツクされ、検挙の対象から除外されている。

 以上の事実が認められ、右に認定したオービス3の原理、構造、とりわけ、プラス誤差が出ない構造になつていること並びに導入にあたつての種々の実験、試験等の結果及び本件各オービス3の点検結果に徴すると、本件各オービス3は速度違反取締のための速度測定装置としての正確性を有しているものと認められ、また、並進車両の運転者が誤つて検挙されるおそれもないものというべきである。

第二 オービス3による速度違反取締りは運転者及び同乗者の「私事への侵入」であり、肖像権、プライバシーの権利を侵害し、また集会結社の自由(憲法二一条一項)を侵害するとの主張について

 憲法一三条は、国民の私的生活上の自由が警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人もその承諾なしにみだりにその容ぼう等を撮影されない自由を有するものであつて、警察官が正当な理由もないのに個人の容ぼう等を撮影することは同条の趣旨に反し許されないというべきであるが、右の自由も公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受けることもまた同条の規定に照らして明らかであり、犯罪捜査という公共の福祉のため、現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ、その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行われるときは、警察官による個人の容ぼう等の写真撮影も許されるものと解するのが相当である(最高裁大法廷昭和四四年一二月二四日判決・集二三巻一二号一六二五頁。右判決は、警察官が公道におけるデモ行進の参加者を写真撮影した事案であり、本件は警察により設置されたオービス3が公道を走行中の自動車の運転者を写真撮影する事実であつて、いずれもプライバシーが保護されなければならない住居等とは本質的に異なり、一般人から認識される状態で公道を通行する被疑者を撮影する事案であるから、プライバシーないし肖像権の侵害に関する右判決の趣旨は本件についても妥当するものと解される。)。

 そこで、右の観点に立つて本件各オービス3による写真撮影について検討するに、まず、本件各オービス3は最高制限速度違反の犯罪を現に行なつている車両を撮影するものであり、直ちに撮影しなければ現場から走り去つてしまうので、証拠保全の必要性、緊急性があることは疑いない。尤も、最高制限速度をいささかでも超えていれば写真撮影が許されるとするのは問題であり、些少の超過に過ぎない場合には、速度測定そのものは許されても、写真撮影を伴う取締りは、その必要性、緊急性がないか、もしくは前記の相当性を欠くものとしてこれを否定すべきものと考えるが、本件はそのような事案でないことは明らかである。次に、前記弁護人の主張に対する判断第一に記載した各証拠によれば、その撮影方法も運転に支障をきたすようなものではなく、かつ、捕捉する車両の速度は、制限速度を三〇キロメートル毎時以上超過するものに限定して運用していること(T証言)が認められるので、方法の相当性もこれを肯定することができる。

 弁護人は、右相当性の判断は、オービス3による取締りが、法の下の平等、集会結社の自由、防禦権等の侵害を伴わないかどうか、及び機械の正確性、運用の相当性等を全体的に考慮してなすべきであると主張し、庭山証言はそれに副うものであるが、前記最高裁判決がいう相当性は撮影方法の相当性であつて、仮りにオービス3による速度違反取締りに主張のような権利侵害ないしは不当な点が存するならば、右取締りがその面から違法視されることはあつても、それは別個に判断されるべき事柄であると解する。

 以上のとおりであつて、オービス3による写真撮影は、捜査のため写真撮影が許される前記の基準に適合するものというべきである。

 また、オービス3による写真撮影は、運転者のみでなく、同乗者の容ぼう等をもその対象として含む場合があり、運転者と同乗者の状況が取締り警察官に覚知されることもあり得るのであるが、このことはオービス3に特有の問題ではなく、他の速度違反取締方法においてもあり得ることであるうえ、前記の要件のもとに許容されている捜査のための写真撮影に際し、犯人の近くにいたためこれを除外できない状況にある同乗者の容ぼう等が含まれることになつても、犯罪捜査という公共の福祉の見地から、それは許容されるものというべきである。

 よつて、本件各オービス3による写真撮影が肖像権、プライバシーの権利を侵害し憲法一三条に違反するということはできず、もとより憲法二一条一項に違反するものではない。


第三 オービス3は、自動二輪車、大型車を捕捉できず特定車種のみを対象としていること、すべての車線を捕捉できず特定の車線のみを対象としていること、並びに、タクシーやハイヤー等の営業車の捕捉が他の車両に比して容易であること等に照せば、オービス3による速度違反取締りは憲法一四条に定める法の下の平等に違反するとの主張について

 (証拠略)によれば、まず、オービス3は大型車を捕捉することが可能であることが認められるので、大型車を捕捉できないので不平等であるとの弁護人の主張はその前提を欠き失当である。また、タクシー等の捕捉(検挙)が他の車両に比して容易であると認めるに足る証拠はない。

 自動二輪車は前部にナンバープレートを設置していないのでオービス3によつて検挙することができないこと及びセツトされた車線を通行する車両のみを捕捉するものであることは、弁護人主張のとおりであるが、従来の取締方法においても種々の制約が存したことは明らかであり、そこに人的物的限界のあることはこれを認めざるを得ないのであつて、ある取締方法がすべての車両の違反を検挙できなければ法の下の平等に反すると解するのは相当でなく、オービス3が自動二輪車及びセツトされた車線以外の車線を通行する車両を捕捉することができないからといつて、不合理な差別が行われているということはできない。

 よつて、オービス3による速度違反取締りが憲法一四条に違反するものであるとは認められない。


第四 オービス3による速度違反取締りは、憲法で保障された被疑者、被告人の防禦権を侵害するとの主張について

 オービス3による捕捉の場合には現場に警察官がいないため、違反現場で弁護する機会が与えられず、後日呼出しに応じて出頭した際はじめて事件当時の事情を供述することになる結果、他の速度違反取締方法と比較して防禦権の行使が制約される場合があり得ることは否定できないところである。

 しかしながら、(証拠略)によれば、本件各オービス3による検挙は、いずれも制限速度を三〇キロメートル毎時以上超過する速度違反を対象としていたものであり、検挙後一週間ないし一〇日前後には警察から被疑者に対して通知がなされ、検挙後二週間前後頃には被疑者の取調がなされ、取調官においてできるだけ詳細に事情を聴取するように努めているのが捜査の実情であり、オービス3により検挙され取調を受けた者のほとんどが違反当時の情況を記憶して弁解を述べていることが認められる。

 このように、本件各オービス3は制限速度を大幅に上まわるもののみを検挙の対象としているのであつて、制限速度を大幅に超過してオービス3で捕捉されるような運転をする場合には、そのような危険な運転をした情況に関する記憶はかなり鮮明に残るものと考えられるうえ、できる限り早い時期に弁解の機会を与え、しかも現場でないことを考慮した事情聴取がなされている捜査の実情に鑑みると、本件各オービス3による取締りが、他の犯罪捜査の場合と比較して、違反者の防禦権を不当に侵害するものであるということはできない。


第五 道路交通法は交通の安全の確保を目的とするものであるから、形式的に制限速度を超過したからといつて直ちに可罰的違法性があるとはいえず、当該事案における道路状況等の具体的内容を分析し、交通事故発生の危険が生じたか否かを検討して犯罪の成否を決しなければならないのに、オービス3による検挙は当該車両の速度のみを把握し、違法性、有責性に関する証拠を収集せずに画一的に運転者を処罰するものであり、しかも制限速度の定め方が道路の一般的状況を無視して一律に定められており、危険の有無、大小と合致していないのであるから、オービス3による速度違反取締りは道路交通法の目的に反し、証拠裁判主義にも反するとの主張について

 道路交通法所定の制限速度違反罪はいわゆる抽象的危険犯であり、個々の事案について具体的に危険の有無を判断するまでもなく、危険の存在が法的に擬制ないしは推定されているものと解するのが相当であるばかりか、前記認定のように、本件各オービス3により検挙されるのは制限速度を三〇キロメートル毎時以上も超過する車両であり、証拠上認められる本件各オービス3の設置場所の道路状況等も考慮すると、かかる車両に交通の危険が生じていることは明らかであるといわなければならない。また、前記のように、できるだけ早い時期に弁解の機会が与えられ、その際違法性、有責性に関する主張をすることはもち論可能であつて、その主張いかんによつてはそれに関する証拠も収集される筈である。

 従つて、右のような現在の運用を維持する限り、オービス3による速度違反取締りに弁護人主張のような問題点はなく、もとよりその取締りが、道路交通法の目的に反し、証拠裁判主義に反するものということもできない。

 以上、弁護人の主張はいずれも採用することができない。

 よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋金次郎 赤木明夫 浦上文男)

 


□出典
  1. 刑事裁判月報16巻1・2号162頁
  2. 判例時報1114号118頁
  3. 判例タイムズ525号294頁

該判例全文・典拠は、『判例体系CD-ROM』(ID-27761198)によります。ただし、入力は長尾亜紀が手作業により行っております。そのため、正確を期しているとはいえ、誤字脱字等があるかもしれません。発見されましたら、是非ご一報下さい。

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