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last update 01 June 2000


□大型犬が小型犬をかみ殺した

原告=甲野太郎 犬の輸入、交配、販売業者
   英国ハードレイ社から六〇万円で輸入されたポメラニアン種M号の所有者
   (被害犬の所有者)

被告=乙山静子
   生後一歳二ヶ月、体重約四〇キログラムの秋田県T号を愛玩用に飼育
   (加害犬の所有者)

事故の内容

原告の妻花子が、当日午前九時ごろ自宅からM号と、同種の犬N号との二匹を一緒に紐でつなぎ散歩に出た。見通しの悪い交差点付近にさしかかったとき、約七メートル離れた所に被告に連れられているT号を発見。花子の足先三〇センチ前にいたM号を抱き上げようとした。

被告は、同時刻ころ、T号を反対方向から散歩させてきたところ、T号がM号を認めて急に走り出した。被告はそれを制御する暇もなく、T号の首輪につけていた皮紐を放してしまった。

T号は花子に抱き上げられようとしていたM号を襲いその脇腹と心臓を咬みちぎってM号は即死。


裁判所の判示

1 被告の注意義務について

「前記のような体格を有し、しかも咬み癖のある犬を愛玩用に飼育すること自体、社会生活の安全に対し無用の脅威を与えるものであるから、かような犬を保管するに至った者は、常にこれを丈夫な鎖で繋留し、運動は金網付の運動場でさせるべく、これを他人や他人と遭遇するおそれのある場所に外出させるこことは極力避け、緊急やむをえない用務で外出させる場合は、犬が暴れても充分これを制御して他に危害を加えさせないだけの技術・体力を有する者をして、犬に口輪をはめ丈夫な--61頁へ--鎖をもって引率させるとの注意義務を負い、もとよりこのような引率者自身も犬を充分に確保し危害を及ぼさないよう万全の措置をとる注意義務を負うものである。」

2 原告の過失について

「他犬との不意の接触・自動車事故等を避けるため犬を引率者の前に出さず予め安全を確かめるべきであり、危険から守るため即座に犬を抱きかかえる等の避難体制のとれるようにしなければならない」

→M号とN号を同時に引率していたため、原告は即座に危険を回避する避難体制をとり得なかった。
 このことに対して過失認定(約三割の過失)。

 八塩による批判
 この過失認定の理由は説得力が弱い。過失認定の意味が問われるところではないだろうか。


3 損害額の計算について

「M号は事故当時四歳七カ月の雄の英国産ポメラニアン種で、曾祖父母から父母までの間チャンピオン賞をとった犬多数であり、M号も〇〇大会でチャンピオン賞を受賞している。英国産ポメラニアン種の一回の交配料の相場は本件事故当時二万五〇〇〇円から三万円であった。
 M号が生存していたとして事故後の平均交配料収入は一回あたり三万円と認定する。
 一般にポメラニアン種の犬の交配回数は一カ月平均四、五回・交配可能年数は平均五〇回の交配を続ければ、七、八歳から一〇歳までである。
 M号の死亡年齢は四歳七カ月であったから、一カ年交配可能回数五〇回、交配可能余命年数事故後三年だえると認定するのが相当である。
 また証拠によればM号の飼育管理費用は、一カ年約七〇万円である。
 原告はM号の交配料年収一五〇万円から必要経費七〇万円を控除した年純利益八〇万円をM号死亡三カ年にわたり毎年三月末に得られたものというべく、これから年五分の割合による中間利益をホフマン式計算法により控除し死亡時における原価を計算すると、二一八万四八二九円となる。なお過失相殺により、被告が原告に対し賠償すべき損害を、一五〇万円と定めるのを相当とする。」

→犬に逸失利益をみとめている
 八塩による着目 「これは、まったく人間の過失利益の計算に準じている。」

 

[NB]
出典:八塩弘二(弁護士)「損害と賠償 (8)大型犬が小型犬をかみ殺した」『時の法令』1617号、60-61頁(平成12年5月15日号)

※該当裁判についての出典の記載がないため、孫引きのまま記載しています。


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