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last update 07 October 1999


◆猫の出産に関して行った陣痛促進剤の投与が不適切なため死亡に至らしめたとして獣医師に求めた損害賠償請求が認容された事例(平成9年1月13日大阪地判)判時1606号65頁・判タ942号148頁。

平成8年(ワ)2167号損害賠償請求事件

原告 死亡した猫の所有者

被告 動物病院を営む獣医師

訴えの内容 診療契約上の債務不履行に基づく損害賠償(母猫・胎児の財産的損害:30+20@2)、猫の死亡による精神的苦痛に対する慰謝料(50)及び弁護士費用(20)、合計140万円の請求。

判決 慰謝料部分以外の財産的損害部分の全額認容(70)、弁護士費用の一部(10)の合計80万円と遅延損害金の支払い命令。

参照条文 民法415条

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争いのない事実+証拠による事実の経過

原告は生後二年一ヶ月の猫(以下、「K」とする。平成7年5月頃から二匹の胎児を懐胎)を所有。同年6月18日午後8時頃、Kは原告自宅で産気づく。原告は、(主治医が不在のため、タウンページで探した)被告に対し、同日午後9時30分頃、Kの帝王切開による出産の処置を依頼。被告はこれを承諾。診察の結果、被告は自然分娩を申し入れ、原告はこれを承諾。被告はKに陣痛促進剤を二回注射(午後9時50分・10時10分頃)。午後10時20分頃、被告病院を出て、主治医のいる病院へ向かう。午後10時35分頃、Kの死亡を主治医が確認。午後11時、Kの開腹により、主治医が胎児の死亡確認(Kの子宮は破裂していなかった)。

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原告の主張

被告がKに投与した「ウテロステパン」はヒト用の医薬品であり、猫に対する使用は許可されていない。それにもかかわらず、漫然と注射をし、その後Kがぐったりしたにもかかわらず何も処置をしなかった。出産経過も良好であったKと胎児の死亡の原因は、被告による注射が原因である。

 

被告の主張

処置に不適切な点はない。投与したのは「プロタルモンF50」である。Kと胎児の死因は不明。

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判決理由

@診療録の作成経緯、掲載態様(重ね書きした痕跡)、これが原告・裁判所に提示された経緯及び時期(第一回期日には提出せず、尋問でも重ね書きについての説明が曖昧)に照らすと、被告人の主張に副う部分は信用しがたい。

A被告人の供述は全体として曖昧であり、薬品名を言い間違えるなどの点に照らしても、投与した薬剤についての被告の主張は信用しがたい。

B原告は、血統の保証された猫を繁殖・販売することを業とするものであること・翌日の主治医による受診に備えて薬品名の確認のため、注射後のアンプルを確認したとの原告の主張からすると、薬剤についての原告の主張は信用できる。

Cウテロスパンは猫に対する投与は認められておらず、用法を誤ると子宮破裂のおそれがあり、副作用の起こる危険性も高い。被告はウテロスパン投与時に必要とされる臨床的な確認作業を怠り、産道部の触診のみでKにヒトの使用適量の二倍を投与し、K・胎児を死に至らしめた。

 →被告の過失によるウテロスパンの投与とK・胎児の死亡に因果関係あり。

DKはチャンピオンの認定を受けている(店頭価格は30万円)。Kの胎児の父親もチャンピオン認定を受けている。このような胎児の店頭価格は20万円以上。その点について被告も認知。

E原告はKを愛玩用としてではなく商品として飼育しており、Kの死亡により精神的苦痛をうけたことは考えられるが、これに対して別途金銭的給付をもって償うべきほどのものとは認めることはできない。

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ポイント

劇薬の投与という専門的施術においての過失の有無の認定について

20分の間に、胎児やKの循環器の機能について十分な診察もせずに、猫について使用が許されていない薬品を、ヒトの使用適量をはるかに上回る量を投与した、という事実から過失を認定。


法律判例文献情報(1998度版)文献番号(9701130001[*])、 判時1606号65頁を参考にしました。


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