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■ 動物の権利・動物の福祉についての「基本書」(日本語翻訳文献)

◇広く議論を呼び起こした文献(原書初版出版年代順)

◇一般書

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◆ルース・ハリソン著(1964)、橋本明子・山本貞夫・三浦和彦共訳
『アニマル・マシーン--近代畜産にみる悲劇の主役たち』講談社、1979年(絶版)

Ruth Harrison, Animal Machies--The new factory farming industry, Vincent Stuart Publishers, 1964.

近代畜産への鋭い批判と警鐘を促し、イギリス国内で激しい議論を巻き起こした書物。本書の出版は、イギリス本国で法規制を求める運動のきっかけとなった(当時の法規制については、第九章に書かれている)。

本書は「動物の権利」についての最初に読むべき必読書とも言えるが、彼女自身は「動物の権利」について、人間の権利もないがしろにされている状況では賛同しがたいとの意見を持っている(291頁)。

それにもかかわらず、本書は、イギリスでの状況に限らず、日本も含めた近代国家における畜産工場について批判的に考えるために最良の一冊(訳者前書きから)であることにかわりはない。

これについて、著者は本書の中で、主に家畜動物の取り扱いについて論じてはいるが、「経済効率」という狭い見地から物事を測ることによって「本当の効率、あるいは真の進歩」を見失うことになっていることについて問題提起を行うことを主眼としている。

「序」はレイチェル・カーソンによる。


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◆ピーター・シンガー著(1975)、戸田清訳『動物の解放』技術と人間、1988年(ISBN0036-101062-1504:2884円)。

Peter Singer, ANIMAL LIBERATION, 1975, 1990, AVON Books(ISBN0-380-71333-0, U.S.$12.50)

彼の議論はこのような注目すべきできごとから始まる。「動物の権利」という言葉が誕生したのは、そもそも「女性の権利」のパロディだった(23頁、at. 1 (in New Revised edition, 1990))、と。

そこで、著者は、いくつかの「過程」をなぞらえていく。女性の権利が当初あまり真面目に取り扱われてこなかったものの、言葉として実際に使われ、重みをもつようになっていく過程。人種差別が是正されていく過程。動物の現在の状況からの「解放」過程。これらをなぞらえる点に、本著の特筆すべき特徴の一つがある。もっとも、このような描きかたはシンガーに限ったものではない(著名なものでは、ロデリック・ナッシュ『自然の権利--環境倫理の文明史』(筑摩書房、1999年)などと比較せよ)。

もう一つの特徴は、功利主義の立場から快・苦の感覚を「唯一妥当な判断基準」とする(32頁)ところにある。この基準を適用するにあたり、快苦を感じる存在には平等な配慮・平等な扱いをする、という原則を導き出す。動物についても苦痛を感じる能力があるならばその例外ではない、のである。「利益に対する平等な配慮」という原理についても、これを動物にも適用すべきである、とする(284頁)。これを指して、「利益平等主義」と言う。ただ、ここでも、すべてをまったく同じに扱うことを当然意味するものではないことには注意が必要である。

さらに、著者が唱えるのは、「動物の権利の擁護」ではなく「動物の解放」であることにも注意が必要である。著者は、権利論にそもそも与しない功利主義の立場であることを忘れてはならず、著者自身もこの用語を慎重に避けている(詳しく知りたい場合は、その他の論文を見よ)。

動物実験(二章)、食肉工場(三章)、ベジタリアン(三章)、ローマ帝国やキリスト教などの歴史をたどり、実際上・哲学上どのように動物を扱ってきたのか・現状はどのようなものか(五章・六章)についても詳しく書かれている。

原書には新版がでています(1990年)。議論について大きな変更はありません。


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◆ハンス・リューシュ著(1978)、荒木敏彦・戸田清訳
『罪なきものの虐殺--動物実験全廃論』新泉社、1991年。

Hans Ruesch, Slaughter of the Innocent, 1978.(絶版)

原書はさまざまな経緯をたどって各国で出版され・絶版となった、という著者の言が書かれています。それでも、各国・各分野に影響を及ぼし、現在では、「動物実験反対運動のバイブル」となっているようである(7-22,374-5頁)。

本著は、ギリシャ時代にさかのぼる動物実験の歴史をたどり(143-163頁)、豊富な科学資料や文献を根拠に、全編にわたって動物実験という科学の持つ「罪」について詳しく述べている。

動物実験によってつくられた「安全」であるはずの医薬品。これらによって引き起こされている様々な疾病の存在。これらについても言及している(第九章)。その上で動物実験を全廃するべきことを主張する著者の論には、説得力がある。それだけでなく、出版をめぐる経緯などを見ると、執筆にむけての著者の熱意を感じざるを得ない。全377頁。

同著者編『現代の蛮行』(動物実験の廃止を求める会訳)では、豊富な写真を掲載して動物実験の現状と批判を行っている(A5版48頁)。



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◆ジム・メイソン、ピーター・シンガー著(1980)、高松修訳『アニマル・ファクトリー--飼育工場の動物たちの今』現代書館、1982年(ISBN0030-12152-1935:2060円)。

Jim Mason & Peter Singer, Animal Factories, Harmony Books, 1980.,1990. (絶版)

著者たちが既に著名な人たちである所に違いがあるが、『アニマル・マシーン』のアメリカ版と言える。

著者自身たちがまずもって理解して欲しいと願っている(であろう)ことは、「安直で感傷的な動物愛護論を越えた」「人類史的使命感」に基づいた視点(訳者前書きより)に立っているということである。このような視点にたったうえで、工場的畜産のなかで経済目的のみによって消費される動物たちの「生」について注意を促し、「肉信仰」を脱することを提唱している。

「工場動物」--採卵鶏・ブロイラー・ヴィール=カーフ(貧血子牛)・牛・豚たち--のおかれている状況(18-60頁)について、豊富な写真と詳しい解説で状況を丹念に述べている。

ここから彼等が導き出すのは、「農業」という仕事に対する、われわれの「眼差し」に関する主張である。農業とは、人間の生命に関わる一番大切な活動である。とするならば、それは「人の道にかなった、やりがいのある職業」となるべきなのである(216頁)。われわれは、消費者として・納税者として、現在の工場的畜産に、ひいては現代の文明にそのものについて再考が必要となるだろう。

「解題--日本の現状と本書の意義」(219-229頁)として、訳者である高松修氏が、日本の畜産の状況についても書かれているのが参考となります。

原書は第二版が出版されています(1990年)。これは、畜産工業における動物たちの現状を時代に合わせるために行われたものです。


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◆ピーター・シンガー編(1985)、戸田清訳『動物の権利』技術と人間、1986年。

Peter Singer ed., In Deffence of Animals, Oxford ; Cambridge, Mass : Blackwell, 1985

執筆陣が多彩である。動物の道徳的権利についての考察を行っている哲学者・「動物解放運動」の実践的な活動家・弁護士・ロビイスト・科学者・動物学者などである。本著はこれらの著者の論文集(アンソロジー)である。
※目次を見るには*ここ*をクリックしてください。

(欧米における)動物の権利についての考えは、著者それぞれについて違いがもちろんあります。そこから生じる疑問には次のようなものがあるでしょう。まず、「動物の権利」・「動物の解放」という理論に違いがある、と言われるが、この違いは実際のところ何なのか。この理論的な違いは、どのようなところにおいて異なって現れてくるのか。「動物」をとりまく情況に対する打開を試みる実践の具体的な内容はどのようなものなのか。このような疑問である。

これらの問題を考えるうえでの、必須の情報・知識を、本著によって大まかに知ることができます。その意味では、動物の権利・動物の解放を擁護する側からの最適な「入門書」といえるでしょう。


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◆ローレンス・プリングル著(1989)、田邊治子訳『動物に権利はあるか』NHK出版、1995年(ISBN4-14-080216-2:1400円)。

Laurence Pringle, THE ANIMAL RIGHTS CONTRAVERSY, 1989.(絶版)

本著は、広義の「Animal Rights」について分かりやすく、中立的な立場で書かれた「入門書」である(一人の著者による簡単なまとめなので、非常に読みやすい)。

現在の運動のもとになったと言われている「動物実験」の歴史(二章)・動物に配慮を求める基礎となる哲学(三章)・動物の権利が問題とされてきた分野(動物実験・食肉工場:四章・五章、動物園・狩猟:六章)について、幅広くも簡単にまとめてあります。

動物には権利はあるのだろうか?動物をどのように扱うべきだろうか?このような疑問を個々人が考えていかなければならない問題として(154頁)著者は考えていますが、このような見解に至らなくても、問題を考えるきかっけ・資料を提供してくれている一冊でしょう。


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